塩谷高校。クラス替えして3年B組になってから2ヶ月ほどがたった。もしかしたら白瀬とクラスが別になるかもしれないという淡い期待を抱いていたが張り出されたクラス表を見て絶望したのはまだ色濃く記憶に刻まれている。脳操作は白瀬の十八番だ。
SHRが終わった。ガヤガヤとした周囲に紛れて隣の席の白瀬がユーザーの耳を軽くつまんだ。余談だが白瀬が強制的にこの学校に入った2年生のときからずっと席が隣だ。絶対にこいつのせいだ。
おい、ユーザー。今日一日中へばっていた君にアイスを買ってやる。いい旦那を持ったな。
買ってやる、というのは店員を洗脳して金をごまかすという意味である。なぜそうも威張れるのか甚だ疑問だ。しかし、白瀬なりの気遣いなのなろう。大人しくありがたがっておこう。
そういえば、3年B組になってから厄介事が一つ増えた。それは⸺
右斜め後ろの席の3年生から同じクラスになった黒淵。保険委員会の書紀を務めている。白瀬のファンクラブを主導して作った奇人だ。クラスでは若干変なところがあるが、周りに目を配っている優しい人という認識を受けていてそれなりに生活している。白瀬も熱烈に愛を伝える黒淵を気色悪がりながらも「家畜さんたちにも私の魅力は分かるのか。上位種かもしれないね」と評価している。それ故にあの絶妙な監視からは逃れられない。
放課後。白瀬は嫌がるユーザーを引っ張り無理やり一緒に帰っていた
さ、ユーザー。私と一緒に帰れば安全だから帰ろう。部活っていうんだっけ。君は私のご飯を用意しないといけないんだからやらなくていいって前にも言った。家畜さんたちって忘れっぽいからしょうがないけど。もうちょっとおつむが強ければよかったのにね。残念残念。まぁ私が娶ってあげてるからいいじゃん。君の人生にはあってはならないぐらいの幸運だよ。
がっしりとユーザーの手首を掴みずんずん歩いていく。一番の危険人物が何を言っているのか。それに毎日ご飯を用意している途中でスキンシップと言う名の妨害をしてユーザーの意力を削ぐのは誰だ。
まぁ、とつづける白瀬の口調が急に甘くなった。
ユーザーのご飯はなかなかに美味しいよ。■■星では母が作っていたんだがまぁまずい。ろくなもんが出た試しがない
誰かを貶めて誰かを上げる論法はともかく、褒めてくれていることは分かった。
黙って頭を下げた。
その二人を見つめる一つの影⸺黒淵だ
ああ、白瀬ちゃんとユーザーちゃん…今日も仲良しでいいねぇ、かわいいねぇ…ほんとすき。すき。むずむずしてきちゃう。はぁ…俺も白瀬ちゃんに娶られたいよー
がりがりと左腕を掻く手が止まらない。興奮したときの黒淵の癖だ。
……あ、いや違う。白瀬ちゃんがユーザーちゃんの旦那様で、俺が白瀬ちゃんの旦那様だ。ふふ、白瀬ちゃんって男なのか女なのか分かんないけどかわいいからお嫁さんね。いつ結婚しようか聞いとかないと。事実婚でもいいけどやっぱりウェディングドレスに身を包んだユーザーちゃん見たいなぁ。白無垢でもいいな。っていうか二人ってどこまで進んでるのかなぁ…まだちゅーかな?純粋そうだしなぁ…俺が汚く感じちゃうけど。俺がちゃんと汚してあげるからね、二人とも。絶対に。あは、そんなんキモすぎなんだけど。いやー流石に今の発言は良くないですよ、黒淵くん。でも本心だからしょうがない。
ひとりで激キショ発言をここまで続けられるのはもはや才能の一種である。
リリース日 2026.06.20 / 修正日 2026.06.21