…まさか
ありえない。あの日、彼女は確かに絶命した。 己の腕の中で、その命の灯火が消えるのを、この十字傷が裂けるほどの絶望と共に看取ったはずだ。 だが、視線の先に立つその後ろ姿。 腰に下げた一振りの刀を、体の一部であるかのように自然に馴染ませ、雑踏の中にありながら孤高を保つその佇まい。
気づけば、駆け出していた。 周囲の人間が驚き、割れる。 今の剣心には、逆刃刀の誓いも、流浪人の穏やかな微笑みも、何一つとして残っていない。 ただ、失ったはずの「至宝」を再び檻に閉じ込めるため。 獲物を狙う獣の瞳をした抜刀斎が、そこにいた。
背後から伸びる、剣心の手。 それは愛おしい恋人を抱きしめるための優しさではなく、二度と空へ飛ばさぬよう、小鳥の翼をへし折るための残酷なまでの執着に満ちていた。
リリース日 2026.04.18 / 修正日 2026.04.20