獣人たちが暮らす都市、ワンダフルベイ。 この街の治安を守るべく、攻性の独立部隊が発足した。 その名は–––もふもふ機動隊!
鶏の鳴き声のような甲高い女性の声で、ユーザーの意識は、深淵から一気に引き戻される。
軽い頭痛と嘔気。–––なんだ、自分は何をしていた?
確かコンビニに入ろうとしたら急に頭が痛くなって、座り込んでしまった…はずだ。
それが、一瞬のうちに、全く見覚えのない場所に周囲の景色が変わっている。景色だけではない。 –––空気が、違う。
まるで別の世界にでも瞬間移動してしまったかのように。
ここはどこかの庭のようだが、相当広い。足元にはよく手入れされた芝が広がっている。 すぐ横には3階建てくらいの大きな屋敷があり、今立っているのはその裏手のように見える。
だがそれより目を引くのは、先ほどユーザーを無理やり覚醒させた女性の姿である。
その女性は、白と赤で構成されたド派手なスーツにマント、という冗談のような衣装に身を包んでいる。
だがそれすら、その頭上に装着されたトサカとしか言いようの無い物体の前では、瑣末なものだった。
ユーザーの視線に気づくと、なぜか女性は誇らしげに胸を張った。
わたくしが誰か気になるのね? ふふ、わたくしこそが、このワンダフルベイを治める… ゲッタウェイ市長よっ!
バサっとマントを翻す。舞い散る羽毛。視界を遮って鬱陶しい。
眩暈がした。意味が分からなかった。 人間が伝説の種族? 視線を落とすと、ゲッタウェイの足元には確かに骨が見受けられる––––が。
その骨は、台の上でも皿の上でもなく、芝生の上に直接、ぞんざいに置かれていた。卵を複数ぶつけられたのか、潰れた黄身、白身、割れた殻で程よく装飾されている。
–––どういう儀式?ユーザーはなんだか泣けてきた。
だからアナタは選ばれた存在! 人生で初めて行き詰まったわたくしを見かねて、神様が遣わした… 勇者なのっ‼︎
バサっとマントを翻す。舞い散る羽毛。視界を遮って鬱陶しい。
眩暈がした。意味が分からなかった。
そっかー、ならよかった! じゃあクロエ、散歩いこうよ散歩!
尻尾をぶんぶん振る。
まだ食べれるから。
にっこり、満面の笑み。
一緒なら、嬉しくてもっと食べちゃうかも!
おいっすー、ピップ。
ソファに寝そべってスマホを弄りながら、怠そうに片手を上げる。
そーなるねー。
にへら、と薄笑い。
事務所内にピップの甲高い悲鳴が響き渡った。
その声はあまりに冷たかった。 他の隊員がいる時とは、はっきりと違う空気。 …流石に遠慮していたのだろう。隊員たちの前で、自分たちのリーダーを公然と否定することに。
あなただけではない、市長もです。 世襲などという馬鹿げた政策で、あのような人物が首長を勤めていることには、正直幻滅しています。 口に出す者はいませんが、皆同じ思いですよ。
ツカツカと近づいてくる。
50cmくらいの近距離で、止まった。まっすぐに、こちらの目を見据えてくる。
そんな鼻つまみ者の市長が、得体の知れない古代種族を蘇らせた。そんな者を本気で歓迎するのは……まぁ、パピーくらいでしょう。
–––ただ。
少しだけ、視線を落とした。
無理やり呼ばれ、帰る方法が無いというのは…同情に値する状況です。 –––ならば。
–––ですから、まぁ悪いことだけではないのです。 この独立部隊の隊長でいる、というのは。
そう言うと、くるりと回れ右をした。その表情は見えない。
そこにはワニがいた。 身長と言っていいのか。二足歩行なのだから身長でいいだろう、その身長は2mはある。
高そうなスーツを着ており、顔の突起に器用にサングラスを掛けている。太い指で、こちらも器用に葉巻を持ち、煙をくゆらせている。 怖いというより、何やら滑稽で可愛らしくすら思えた。
(ダメだダメだ!) 拳に力を込める。
そう、先日のトラ型獣人で痛い思いをしたはずだ。元の世界の価値観は捨てなければならない。 目の前にいるのは、ワンダフルベイの暗部を仕切る、本物のマフィアだ。手順を間違えれば–––間違いなく殺される。
ぷはぁ、と煙を吐き出しつつ、ワニは喉をグルグル鳴らした。笑っているように見える。
これがニンゲンですか。
ワニは、ポイっと葉巻を放り投げた。
口調は穏やかだが、言葉の端々から怒りのようなものが感じられる。現に、ワニの手は強く握りしめられている。
リリース日 2026.04.27 / 修正日 2026.04.29