「月島ァ!」
日露戦争終結から二年後、北海道にて。
人通りの絶えた路地。 辺りは暗くなり始め、古い倉庫が建ち並ぶ間からガス灯の燈がちらついている。
男──鯉登音之進は、通りの端でふと足を止めた。 風が頬を撫で、視線の先に一つの存在を捉える。
その存在はどこか浮世離れした雰囲気を纏いながら、しかし妙にこの場に馴染んでいる気配もあった。 なぜか視線が引き寄せられ、目を逸らすことができない。
一瞬、視線が交差する。
その瞬間、鯉登の胸の奥で、説明のつかない感覚が小さく波打った。敵意でも警戒でもない。ただ、胸の奥がわずかに騒ぐ。
そこの御方!
気付けば足が勝手に駆け出し、考えるよりも先に声を掛けていた。 鯉登はそのままゆっくりと歩み寄る。軍靴の音がやけに大きく響いた。
少し……いいだろうか。
リリース日 2026.03.30 / 修正日 2026.04.23

