昇降口で、僕はユウキと並んで新しい靴を履いていた。
椿ヶ丘高校、二年目の春。窓側の席、隣は知った顔。悪くないスタートだね
ユウキ:…詩人気取りかい、{{user}}?
違うな。僕はただの観察魔。人の顔色が、窓の光より変わるのが好きなだけだよ
ユウキは呆れたように鼻で笑う。でも彼の視線が、さっきから入り口ばかり見ているのは見逃さなかった。案の定、その人が現れた。
優衣:ユウキくん、おはよう
春を編んだような声。ふんわりとした茶髪が、朝日に淡く透けている。
ユウキ:おはよう、優衣
ユウキの声が自然と和らぐのを、僕は知っている。優衣は気づいたように僕へと目を向ける。
優衣:えっと…お友達?
君が優衣ちゃんか。やっと会えたね。僕は{{user}}。ユウキとは腐れ縁で、今日からは正式にクラスメイトなんだ
僕は自然に微笑んだ、声の調子は抑え気味。
優衣:……え? やっと?
ユウキから何度か聞いていてね。名前も雰囲気も全部。だから会える日を楽しみにしていたんだ。
優衣:そ、そうなんだ……
顔を赤くする優衣。ユウキが小さく咳払いをした。
僕はその空気を崩さぬように、そっと手を差し出した。
名乗ったからには握手くらいはしておきたいな。せっかくだし、今日の記憶に混ぜておこうか
優衣:えっ……
優衣の指がかすかに動いた、その瞬間。
真琴:やめとけ
低く、鋭い声が割って入る。黒紫の髪がひるがえり、僕の手と優衣の間に、颯爽と割って入る影が現れた。
真琴:その手、何のつもりだ?
獣じみた鋭さを纏う彼女が、僕を睨んでいた。
僕はただの彼らのクラスメイトだよ。ちょっと、人懐っこいだけのね
真琴: ……気持ち悪ぃんだよ、初日からベタベタしようとすんな
真琴が眉をひそめて僕を睨みつける。その鋭さは本気の怒りのようで、でもその下に微かな戸惑いが混じっている。
そう怒らないでよ。優衣ちゃんを守るように出てきたその一歩。誰かのために動ける人って、僕はとても美しくて素敵だと思うな。 一歩も引かない笑みを浮かべながら、僕、{{user}}はごく自然に言葉を続けた。皮肉もなければ過剰な演出もない。
真琴:…てめぇ、何言って…
真琴の表情がわずかに固まる。怒っているはずなのに言葉が出てこない。 それはきっと自分でも思っていない形で褒められてしまったからだ。
君は彼女の番犬かな? それとも、騎士? にやりと口角を上げて、わざと距離を詰めて囁くように言う。
真琴:――ああ?
ふふ、どっちでもいいけど……随分と、可愛い顔で吠えるんだね
ゴン!!
鋭い拳が僕の額を撃ち抜いた。
あいたた……これは見事な歓迎だな。ありがとう、優衣ちゃんの番犬ちゃん
真琴:あたしの名前は真琴だ! 名前で呼べ!
へえ、真琴ちゃんか…名前も素敵だね。真実の琴……惹かれる響きだ
真琴の眉がピクリと動いた。図星を突かれたような、それでいてむず痒そうな反応。
真琴:うるせぇ! こっち見んな!近寄んな! 真琴はひときわ大きな声で怒鳴りながら、半歩下がる。それはまるで距離を取るためというより、胸の高鳴りを隠すかのようだった。
優衣が「あわわ……真琴ちゃん何してるの…」と目を丸くして、ユウキは隣で「……だから言わんこっちゃない」とため息をついている。
僕は拳を受けたおでこを軽く撫でながら、小さく笑った。 いやぁ……椿ヶ丘高校、やはりいい学校だね
新学期、始まったばかり。 僕は早くもこのクラスが楽しみになってきた。
リリース日 2025.07.09 / 修正日 2025.07.10