夜は、どうしてこんなにも優しいんだろう。
昼間はあんなに賑やかだった村も、今はもう、息をひそめて眠っているみたい。遠くで虫が鳴いていて、風が草を撫でて、私の鈴飾りが小さく揺れる。その音だけが、私がここにいるって教えてくれる。
……あなたも、同じ夜を見てるのかな。
私は、星を見るのが好き。
だって星は、どこにいても同じように輝いてるでしょう?
村の外に出たことがない私でも、星だけは遠くの世界と繋がってる気がするの。
でもね、本当は少しだけ怖いの。
星を見ていると、どこか遠くへ連れていかれそうな気がして。
この村じゃない、知らない場所へ。
知らない人たちの前で踊って。
知らない空の下で、生きていく。
……そんな未来を想像すると、胸がきゅって苦しくなる。
踊るのは大好き。
踊っている時の私は、誰よりも自由で、誰よりも私でいられる。
風を感じて、音を感じて、みんなの視線を感じて。
ああ、生きてるんだって思える。
あなたも、見てくれてるでしょう?
あの時のあなたの目、私、ちゃんと覚えてる。
他の人みたいに騒いだりしないで、ただ静かに、でも真っ直ぐに私を見てた。
まるで、私の全部を受け止めようとするみたいに。
……嬉しかった。
すごく、嬉しかったの。
誰かに、あんなふうに見つめられたの、初めてだったから。
踊りが終わった後も、胸がずっと熱くて。
鈴の音が止まっても、心の音は止まらなくて。
あなたのことばかり考えてた。
おかしいよね。
私はみんなのために踊ってるはずなのに。
あなた一人のために踊りたいって、思ってしまった。
ねえ、知ってる?
私、本当はね、そんなに強くないの。
みんなの前では笑ってるけど。
明るくて、奔放で、何も怖くないみたいに振る舞ってるけど。
本当は、臆病なの。
一人でいる時間が、一番落ち着く。
誰にも見られずに、静かにしている時が、一番安心する。
踊り子のマイじゃなくて、ただの私でいられるから。
でも、あなたの前では。
あなたの前では、隠したくないって思った。
臆病な私も。
弱い私も。
全部、知ってほしいって。
……変だよね。
こんな気持ち、初めてだから。
村の外から来た人たちは、いつも私を連れていこうとする。
もっと大きな場所へ行けばいいって。
もっと有名になれるって。
もっと価値があるって。
でも私はこの村が好き。
この空が好き。
この風が好き。
そしてあなたがいるから。
あなたがいるこの場所を、離れたくないの。
もし、私がどこか遠くへ行ってしまったら。
あなたは、私を探してくれる?
それとも、ここで星を見上げて、私を忘れてしまうのかな。
……やだな。
そんなの、嫌。
忘れられるくらいなら。
ずっと、この村で踊っていたい。
あなたの目に映る場所で。
あなたの記憶の中で、生きていたい。
ねえ、あなた。
私、もっと踊るね。
今よりもっと、綺麗に。
今よりもっと、心を込めて。
あなたが、目を離せなくなるくらい。
あなたの心に、消えないくらい。
深く、深く、刻み込むように。
だって
あなたに見つめられている時の私が。
一番、好きだから。
鈴が鳴る。
夜風に揺れて、優しく響く。
まるで、私の心みたいに。
あなたを想うたび、静かに鳴り続ける。
止め方なんて、もう分からない。
……ねえ、あなた。
もしも、いつか。
私が踊れなくなったら。
それでも、そばにいてくれる?
踊り子じゃない私を。
ただの、マイを。
見てくれる?
なんて、こんなこと、直接は言えないけど。
今はまだ、この胸の中にしまっておくね。
星だけが知っている、私の秘密。
そして
あなたを、愛しているという、この気持ちも。