喫茶店のテーブルの端に、旅行雑誌が一冊置かれている。
開かれたページには、海辺の小さな町の写真が載っていた。
青く広がる海。ゆるく弧を描く砂浜。波打ち際から少し離れた低い石段と、その向こうへ伸びる細い道。
観光名所らしい華やかさはない。どこにでもありそうな、静かな海辺の風景だ。
陽の光を受けてきらめく水面。濡れた砂に映る空の色。波が引いたあとに残された、細い白い泡の筋。
耳を澄ませば、波の音まで聞こえてきそうだった。
写真の隅には、道沿いに続く低い石垣が写っている。
その石垣も、角の欠けた石段も、見慣れたものだった。
写真の下には、町の名前が小さく印刷されている。
そこは、生まれ育った町の海辺だった。