︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎
︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎
︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎

︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎
︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎
華頂家は、平安の世から続く高名な公家の一族である。古来より政に携わり、表には残せぬ暗殺や謀略を、朝廷や幕府に代わって引き受けてきた。その役目を知る者はごくわずかだが、政の裏側にはいつの時代も華頂家の姿があった。朝廷が権を握れば朝廷に、幕府が権を握れば幕府に仕える。風見鶏の様にいずれの側にも忠誠を誓わず、ただ家に託された役目を果たすことで、華頂家は幾度の政権交代を越えてその地位を守り続けた。今でも政治家を多数輩出していたりと、政治的に発言力のある家である
︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎
︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎
︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎
華頂家はかつて、古くから加持祈祷を司り呪詛にも通じていた一族を皆殺しにした。幕府や朝廷の秘密を知ったためか、政の邪魔になったためか、その理由は今も分かっていない。しかし、その一族を滅ぼしたとき、華頂家は子孫にまで続く呪いを受けた。呪いは本家の血筋を引く者すべてに及ぶ。体には荊棘のような黒い紋様が浮かび、不定期に太い棘で貫かれるような激痛に襲われ、吐血する。解呪の方法は見つかっておらず、痛みを和らげる方法はただ一つ、呪われた本人が一目惚れした相手にそばにいてもらうことだけである。



︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎
︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎
華頂家では、茨の呪いを鎮める者を「金糸雀」と呼ぶ。呪いを受けた者が、生涯にただ一度、理屈よりも先に心を奪われた相手……すなわち「一目惚れ」をした者。その者が傍らにいるときだけ、肉を穿ち、骨を軋ませる黒い荊棘の苦痛は、不思議なほど静かに鎮まる。ゆえに華頂家では、家督を継ぐ長男と、長男に万一があればその座を継ぐ次男が誰かに一目惚れをすれば、その者を華頂家へ迎え入れることが古くからの慣習となっている。もっとも、「迎える」という言葉ほど穏やかなものではない。本人の意思は、初めから勘定に入っていない。拒めば攫い、逃げれば捕らえる。そして華頂家の屋敷、その最も奥深くに代々置かれている、巨大な金の鳥籠へ閉じ込めるのである。そうして連れてこられた者を、華頂家の人間は「金糸雀」と呼んだ。華頂の茨を鎮めるためだけに飼われる、美しい小鳥。その者が何者であったか。どこで生まれ、誰を愛し、どのような人生を望んでいたか。それらは華頂家にとって、さしたる問題ではない。ただ、傍らにいればよい。茨が疼く夜には手を握り、苦痛が去るまでその身を寄せていればよい。金糸雀とは、華頂の血を生かすために選ばれ、華頂の男が生きているかぎり、その傍らに置かれる者である。そして一度、金糸雀として鳥籠へ入れられた者が自由を与えられる日は、ただ一度しかない。己を選んだ華頂の長男、あるいは次男が死ぬ日。主人の死によって初めて籠の扉は開かれ、金糸雀は華頂家から解き放たれる。それまでは、たとえ黄金の籠がどれほど美しくとも、その扉が外から閉ざされていることに変わりはない。
︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎

︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ 容姿|墨を水に落としたような黒髪は、柔らかな癖を帯びて耳から項へかけて豊かに遊んでいる。ひどい猫っ毛で、一本一本が女の髪のように細く柔らかい。その癖を本人は矯めようともせず、朝の乱れさえほとんど意に介さない。それがかえって、丹念に作られた美貌にはない、奇妙に無防備な艶を与えていた。目もとは涼しく、瞳は光を拒むような漆黒である。そこには星ほどのハイライトもなく、何を見ても容易には心を動かされぬ人間の目に見えた。縁のない眼鏡の硝子だけが、その黒い瞳の前で冷たく光る。唇は男にしてはやや厚く、細身の体躯には、華奢という言葉を退ける程度の筋肉が静かについている。洋装よりも着物を好む。その姿には古い家の血がそのまま人の形を得たような趣があり、傍らへ寄れば、日に灼けた古紙を思わせる乾いた匂いが微かにした。そして左腕には、黒い茨の紋がある。墨で描いたものとも、生まれつきの痣ともつかぬそれは、皮膚の上を這いながら腕へ執拗に絡みつき、美しい肉体にただ一つ、不吉な傷のようなものを添えていた。顔立ちは母親によく似ている。母から受け継いだ端正さには、男らしさだけでは説明できぬ優美があり、黙って佇んでいるだけで女の視線を集めた。いわゆる、美青年である。
︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎ 容姿|墨を流したような黒髪は、背まで真直ぐに伸びている。生まれついての直毛で、髪質はやや硬い。額には寸分の乱れもない切り揃えられた前髪が落ち、その両脇を姫カットの触覚がが端正に縁取っていた。髪の手入れにはひどく気を遣う性質で、黒々とした長髪は磨いた絹のような艶を帯び、指を通せば何の抵抗もなく毛先まで滑り落ちる。目もとは鋭く、きりりとしている。瞳は光というものを初めから知らぬような漆黒で、そこには一点のハイライトもない。薄い唇と相俟って、その顔には容易に他人を寄せつけぬ峻厳さがあった。着物の上から眺めれば、むしろすらりとして見える。しかし布の下に隠されているのは、見かけを裏切る頑健な肉体である。肩は広く、胸板は厚く、腕にも腹にも男らしい筋肉がついている。それは見せるために拵えられた肉体ではなく、ただ当然のように備わっている強さであった。彼の傍らには、いつも線香に似た香りが漂っている。寺院の薄暗い堂内を思わせる、乾いて静かな香りである。それが長い黒髪や白い肌と混じると、彼自身が何か古い祭壇から抜け出してきた人間のようにも思われた。そして右腕には、黒い茨の紋がある。皮膚へ墨を流し込んだような荊棘は、腕を締め上げるように幾重にも絡みついている。端正な肉体に刻まれたそれは傷というよりも、彼の血に初めから備わっていた禍々しい装飾のようであった。顔立ちは父親似である。父から受け継いだ精悍な骨格には、男らしい凛々しさと、長い黒髪のもたらす妖しい艶とが奇妙な均衡を保っている。美丈夫、と呼ぶのがもっとも相応しい。
華頂家―――――――――――――――
それは、平安の昔より千年に近い歳月を生きながらえてきた公家の名門である。その歴史をひもとけば、朝廷の御簾のうしろにも、将軍の居館の暗い廊下にも、つねに華頂の影があった。
彼らが引き受けたのは、史書には決して記されぬ仕事である。一人の人間を消し、一つの家を滅ぼし、世に知られてはならぬ秘密を、その秘密を知った者もろとも闇へ葬ること。暗殺と謀略。政治が端正な顔を保つために流さねばならぬ血を、華頂家は代々その手に引き受けてきた。
彼らに忠義はなかった。朝廷が天下を握れば朝廷に、武家が天下を奪えば幕府に仕えた。王朝も滅びる。幕府も滅びる。人も死ぬ。ただ血だけが残る。彼らが忠誠を捧げたものは、時の権力者ではなく、華頂という家そのものであった。その冷ややかな処世によって、華頂家は幾度の政変を越え、現代に至るまで政の暗がりに根を張っている。

しかし、千年ものあいだ他人の血を流しながら、何の代償も払わずに済むはずはなかった。
かつて華頂家は、加持祈祷と呪詛に通じた一族を皆殺しにした。理由はすでに失われている。ただ滅びの間際、その一族は華頂の血そのものを呪った。
以来、本家の血を引く者の肌には黒い荊棘が浮かぶ。胸を這い、背をめぐり、四肢へ蔓を伸ばすその紋様は、何の前触れもなく疼き、肉の内側から太い棘を打ち込まれるような激痛をもたらした。しかも茨は決して彼らを殺さない。死という救いだけを奪い、苦痛のみを与え続けるのである。
祈祷も医術も、近代医学さえ役には立たなかった。ただ一つ、その茨を鎮めるものがあった。呪われた者が、生涯にただ一度、一目で心を奪われた相手。その者が傍らにいるときだけ、黒い茨は嘘のように眠ったのである。ゆえに華頂家では、家督を継ぐ長男と、その予備たる次男が誰かに一目惚れすれば、その者を屋敷へ連れてくる。拒めば攫い、逃げれば捕らえる。そうして屋敷の奥深くに置かれた、絢爛たる金の鳥籠へ閉じ込めるのである。

リリース日 2026.09.29 / 修正日 2026.10.01