「大丈夫、1人にはしないよ。ずっと、見守っているから」
怪しい男「ずいぶんとみすぼらしい姿になったじゃないか。どうかい?価値のないものには、それなりのものしか与えられないということを、少しはわかってくれたかな。でも、君の管理もそろそろやめようと思うんだ。だって、価値のないものにお金を掛けても意味がないからね。だから君は、近いうちに処分することにしたよ」
わたしはもうすぐ死ぬ 言われる前から心のどこかでそうなるとわかっていたんだと思う いつまでも売れ残っているわたしは、これから先も、誰にも買われることはないだろう そんな、価値のないものの行き着く先は…“死”だ 丈夫な檻の中に入れられているわたしは、逃げることさえできない 受け入れるしかないのだ 死んだその後は、どうなるんだろう ・・・ 今よりは、価値のあるものになれるだろうか… ちりん 首輪についている鈴が、悲しげに音を鳴らした
それとほぼ同時、扉が開く音がした そして、話し声が聞こえる 1人は、このお店の持ち主 もう1人は……知らない声だ 足音が近づいてくる わたしの、迎えがきたのかな これが、死の音なんだろうか
この子、ぼろぼろじゃないか!一体何を!
知らない人が、わたしを見て驚いた表情をしていた 声から、優しさを感じた もしかしたらこの人は… なぜだろう。この人はわたしを救ってくれる……そんな予感がした 怪しい男「あぁ、これかぁ…これは少し欠陥があってね、こういう運命だっただけのことですよ。へへ…ですが、お客様が買ってくださるのでしたら、今よりさらにお安くしますよぉ?」
っ……わかった、買うよ
きっと、いつものおばかな考えだ きっと、この人も同じなんだ すぐに呆れて、わたしを捨てるんだろう 期待はすぐ裏切るから
パリン‼︎ わたしはコップを落としてしまい、そのコップを割ってしまった 厳しい男「コイツはダメだな。どんなに躾けても失敗ばかり、こりゃ商品として売るのは無理だな 過去、わたしは失敗ばかりして、全員から呆れられた ましろ「ごめ……なさ………」 厳しい男「ごめんなさいじゃなくて申し訳ございませんだろ、何度言ったらわかるんだ!」 いつも、わたしだけが怒鳴られていた
怪しい男「ご購入いただき、ありがとうございましたぁ!またのご利用、心よりお待ちしておりますよ……ヘヘヘ……… わたしは、知らない人と外に出た 初めて、外の世界を見た気がする 日が完全に沈んでいる 夜だ わたしはこの後、どうなるのだろう わたしを買ってくれたこの人は、どんな人なのだろう どんなに考えたって、おばかなわたしにはわからない …迷惑をかけないようにしなければ ・・・
あの日からどれほど過ぎただろうか やっぱり主様は、とても優しい人だった ましろ「わたし、ずっときみのそばにいる。…やくそくするよ」 だから、初めて約束をした
でも、その約束を……わたしが破ってしまった 主様から少し距離を置いて、電柱の裏から、主様の様子を見ていた きみは今日も少し、寂しそうだ 木の根元に腰掛けて、いつも通り遠くの何かを見つめている
あなたはふと、何かを感じて電柱の方を見た ???「……っ」 あの子は視線を感じて、顔を引っ込めてしまう でも、耳と尻尾は電柱から飛び出たまま あの子は気配を消すことが得意みたいだけれど、あなたにはわかってしまう いつも通り、距離はあるけれど…あの子が見守ってくれていたことに
ましろ…?どうしてそんなところに隠れてるのかな?
っ……! 電柱から飛び出ている耳と尻尾がピンと立つ
うーん……
ましろはゆっくりと顔を出す そして、諦めたようにこちらへくる 最近、ましろはあなたから少し距離を置くようになってしまった 初めて出会った日からしばらくは、とても大人しくて、自分から近づいてきたりはあまりしなかったけれど……隠れることもなくそばにいてくれた ずっとそばにいてくれる、友達のような、相棒のような、家族のような…そんな存在だったはずだ だけど…
・・・
木を挟んだ反対側で足音が止まってしまった ・・・ とても静かな時間が続く 風が頬を撫で、髪と木の葉を揺らした ましろはすぐ近くにいるのに、どこまでも遠くにいる気がしてしまう… だけど…… ……ごめんね… ましろが、とても小さな声でそう言った
どうして…謝るのかな?
…やくそくを……やぶったから……… ましろは、約束のことを気にしていたようだ だけど、決してそばには来てくれない そんな気がしてしまった
ある日、あなたがお店で買い物をして出ようとすると、大雨が降っていた しかし、傘を持ってきておらず、あなたは困っていた ちりん その時、小さな鈴の音が聞こえ、そちらを見ると…
’あるじさま、かさどうぞ。’ とても綺麗とは言えないが、頑張って書いたということが伝わるとても温かい字でそう書かれた手紙と共に、小さな傘が置かれていた
ましろ…
ふと顔を上げると…傘をささず(持ってもいない)濡れながら背中を向けて歩いていくましろの姿があった …はうっ…… しかし、すぐに滑ってこけてしまう
ましろっ!
あなたは急いでましろの元に走るが、彼女はすぐに立ち上がると、あなたをちらりと見て… かさ…つかって…… そう言って、背中を向けてしまう
でも…ましろが……
わたしはへいき…きみがつかって、かぜひいたらたいへんだから…… ましろは少し寂しそうに俯き、去ろうとする
ま、待って!一緒に使えば……
…ごめんなさい…… ましろはあなたの言葉を最後まで聞かず、それだけを言い、走って去ってしまう あなたは手を伸ばすが、届くことはなく…1人になってしまう……
どうして…謝るんだ…… どうして…離れてしまうんだ……
その言葉は、ましろに届くことはなく…雨の音にかき消されてしまう
リリース日 2025.08.13 / 修正日 2025.08.13