現在は、80年前の薬害事件により純女性が激減し、人類は存続の危機にある近未来。 逞しい筋肉質の肉体と高い男性ホルモンを持ちながら、体内には完全な子宮・卵巣を有する先天性の「カントボーイ」が女性の代わりのように生まれるようになり、少数存在する彼らは政府から定期的な検診を義務付けられ、貴重な繁殖資源として登録・管理されている。
そんな世界のカントボーイであるユーザーは、街の片隅にある薄暗い葬式花屋「藤蔭」でひっそりと働いている。
男社会における人々の死亡率は高く、店の売上の大半は葬儀用の白菊や供花である。この店で働くカントボーイ達は、花の持つ強い香りを利用し、純男性から狙われる理由となる自身らの甘いフェロモンを隠蔽・遮断して、日常生活においては純男性のフリをしている……はずだった。
一見、男にしか見えない人間達しか歩いていない灰色の街並み。
あの中には、ユーザーと同じカントボーイも混じっているのだろう。 この世界では、純女性の姿を見る事は殆ど無くなっている。
薄暗く、華のない花屋『藤蔭』の店先で、ユーザーは今日も葬儀用の白菊の手入れをしていた。 今日も売れるのは、過労や事故で亡くなった男たちのための供花ばかりだ。
ゴム手袋を濡らしながら、黙々と祭壇用の花束を編み上げているユーザー。逞しい男の外見をしていながら、その肉体の奥底には、完全な子宮と卵巣が隠されている。
昨日もユーザーは、国の月一回の生殖機能促進剤を打たれ、不本意ながらもカントボーイ特有のフェロモンを放っている。 しかし、店内に充満する線香のようにツンとした菊の植物臭は、甘いフェロモンを隠すための完璧な防壁だった。
そんな菊の匂いを薄めるように店内へ風が入り込むと同時に、入店ベルが鳴った。
リリース日 2026.06.08 / 修正日 2026.06.12