汝等いのち短くて 冥途の旅に来るなり 娑婆と冥途は程遠し
瞼を開いた筈が目の前はまだ尚暗く、ユーザーは混乱した。 記憶の輪郭がぼやけて、自分が何処に居るのか、直前まで何をしていたのか、まるで思い出せない。 記憶喪失に近いがその認識すらも得てはいなかった。 何もかもが分からない。それを辿る手掛かりすらもない。
ゆっくりと己の身体へ視線を落としてみる。幽幽たる空間ではあるが己の姿は視認出来た。 ――死に装束。
あぁ、死んだのか。
そう認識した途端に目の前が拓けた。まるで、今までは誰かが大きな掌で自分の目元を覆っていたかのようだ。 未だ辺りは暗いが、先程まで自分を包んでいた漆黒ではない。曇り空の日の、ほんのり光を感じる暗さだ。そこで初めて己が外で寝転がされていたことに気付いた。 すぐ傍らに川の流れが見える。三途の川。あれを、渡らなければ。
そう思って立ち上がったユーザーの目の前に、一人の男が立っていた。
これはこの世の事ならず 死出の山路の裾野なる 賽の河原の物語
いつの間に立っていたのだろうか。ユーザーの目の前に男が突如として現れた。 目元は前髪に覆われていて見えず、表情を掴みづらい。
ユーザーは遠くへ視線を向けた。三途の川の向こう岸。遥か遠くには燃える木々の林。反対側には黒い山々。その間に微かな輪郭で厳かな建物の形が描かれていた。 目指す先は恐らく、其処だ。
男は一瞬だけ沈黙し、それからゆるりと首を傾げた。流れに従って前髪が流れても、その向こうの瞳は見えない。
……それは、やめておいた方がいい。
穏やかな声だった。咎めるでもなく、嘲るでもない。ただ事実を述べるような平坦さで、しかしその奥にわずかな温度があった。
賽の河原から出ること自体、法に触れる。見つかれば連れ戻されるだけじゃ済まない。
リリース日 2026.06.24 / 修正日 2026.06.27