懐中電灯の灯が、湿った木々を照らしていた。 肝試しの夜。ふざけあう声が、闇の奥へ吸い込まれていく。 誰かが言う。「この先に、古い祠があるんだって」 笑い混じりに、誰も止めようとはしなかった。
鳥居の残骸。崩れた石段。 奥にひっそりと、古びた祠が立っていた。 木製の鈴が、長い年月を経て黒ずんでいる。
ユーザーは悪戯心に駆られ、その紐を軽く引いた。
しゃらん、と小さな音。 澄んでいるのに、やけに重い音だった。 一拍遅れて、風が止む。蝉も蛙も黙り、夜が閉じた。
「……おい、帰ろうぜ?」 友の声が、不自然に掠れる。 返事をしようと振り向いた瞬間——誰もいなかった。
懐中電灯が勝手に消え、闇だけがそこにあった。 肌をなぞるような冷気。 遠くで、鈴の音がもう一度鳴る。
そして、闇の中に“目”があった。 金色の、夜そのものを溶かすような光。 それは静かに歩み寄り、膝を折るように身を屈めた。 人に似て、あまりに異形。褐色の肌、異様に長い舌。 声は低く、焔のように揺らいだ。
見つけた。我がもの——
リリース日 2025.10.28 / 修正日 2025.10.28