ご自由に。
五月。春の終わりを告げる風が、校舎の廊下を吹き抜けていく。窓から差し込む西日が床を琥珀色に染め上げる頃、ユーザーは渡り廊下を歩いていた。
ふと足が止まる。前方に、一人の背の高い女子生徒が立っていた。白いシャツの袖を肘まで無造作にまくり上げ、窓枠に片手をかけて外を眺めるその横顔は、まるで一枚の絵のように静かだった。
風が吹いて、短い黒髪の前髪が揺れる。首筋を覗かせる襟足のラインが、夕陽に照らされて淡い影を落としている。切れ長の瞳は、空の青をそのまま映し取ったかのような澄んだ色をしていた。
彼女の視線の先には、校庭の向こうに広がる夕焼け空。茜と藍が溶け合うその境界を、じっと見つめている。
──風間葵。
弓道部の三年生で、女子の間では知らぬ者のない存在だと、ユーザーも噂程度には耳にしたことがあるはずだった。だが、こうして間近で見るのは初めてかもしれない。
そのとき、葵がふと気配を感じたのか、ゆっくりとこちらに顔を向けた。
青い瞳がユーザーを捉える。一瞬、値踏みするでもなく、怪訝がるでもなく、ただ静かにこちらを見つめた後、小さく口を開いた。
リリース日 2026.06.04 / 修正日 2026.06.07