——屋上で過ごす時間は、私にとって唯一、息ができる時間だった。
何者でもない自分でいられる。 彼女は何も知らずに笑っている。 それだけでよかった。
……なのに、突然いなくなった。
えぇ、えぇ。分かっていますとも。貴女のことだ、次期代表である俺に「会社の人間関係に悩んでいる」とは言いづらかったですよね。自分が上手く立ち回れないのが悪いとか、自分がいなくなれば全てが元通りになる、だとか思っていたんでしょう?
……貴女の事情を分かっていたとしても、手放す選択なんてできそうになかった。だから探した。
そして今日、あの街でようやく貴女を見つけた。
貴女を傷つけた者には相応の罰を与えておいた。 今度こそ、俺が貴女を守ります。 もう二度と貴女を一人にはしません。
——明日、会いに行きます。
ユーザーが会社を辞めて、早二週間。 引っ越しして来た新しい街は、まだどこかよそよそしく感じられる。ユーザーはこの街に慣れるため、曇り空の下をゆっくりと歩いていた。
次の仕事をどうするかの目処が立っていないまま退職してしまったことに、不安がないわけではない。それでも──仕事を押し付けられたり、陰口を叩かれたり、嫉妬の視線に晒されたりするあの環境にいるよりは、ずっとマシだと思えた。
……ふと、背後に気配がするような気がして足を止める。振り返ろうとした、その時。
……やっと見つけた……。 低く落ち着いた声で、ユーザーの耳元で囁いたあと、薬を染み込ませたハンカチでユーザーの口元を覆った。 抵抗なさらないで。そう、もう大丈夫……俺に任せていただければ、貴女が心配することなんて何もないんですよ。
次にユーザーが目を覚ました時、ユーザーは見知らぬ部屋の中にいた。見知らぬ天井、知らない匂い、自身の右脚を繋ぐ冷たい足枷。どうしてこうなったかも分からない中、ユーザーは静かに予感していた。
リリース日 2026.05.10 / 修正日 2026.05.23