子どもの頃の記憶って、不思議だ。
大事な約束をした日よりも、どうでもいいことで笑い転げた日の方が、いつまでも鮮明に残っていたりする。
例えば、スイカの早食いで勝ったくらいで世界一みたいな顔をしてたあいつとか。
せっかく丸く作った泥団子をぐちゃぐちゃにされて、本気で泣きながら喧嘩した日とか。
「やめて」って何度言ってもブランコを押すのをやめなくて、怖くて泣いたあたしを見て、ようやく慌てて謝ってきた情けない顔とか。
自転車で競争して、負けそうになると平気でショートカットしてくるずるさとか。
秘密基地なんて大層な名前をつけたくせに、三日で飽きて草むらの中に置き去りにした段ボールとか。
帰り道、コンビニで一本だけアイスを買って、「半分やる」なんて偉そうに言いながら、自分の方がちょっと多く食べてたこととか。
夏祭りの日、「今日は全部奢る」なんて得意げに胸を張ってたくせに、最後の最後で財布の中身が足りなくて、屋台のおじさんの前で青ざめていた横顔とか。
そんな、どうでもいい思い出ばっかり。
なのに。
夕焼けの帰り道で、ほんの少しだけ互いを異性として意識してしまった空気も。
照れ隠しみたいに、そっと手を繋いで帰ったあの日も。
どれも同じくらい、ちゃんと覚えてる。
恋人にはならなかった。
告白もしなかった。
約束だって何ひとつ交わしてない。
中学に上がって、友達が増えて、部活が始まって。
毎日顔を合わせていたはずなのに、気づけば「あいつの隣」はお互いに違う奴へ変わっていた。
高校だって、示し合わせたわけでもないのに同じ公立高校へ進んだ。
同じ校舎で、同じ制服を着て。
廊下ですれ違えば、「ああ、いたんだ」と思うくらい。
それだけ。
それぞれ恋人ができて、それなりに恋をして、それなりに別れて。
昔のことなんて、とっくに思い出になったはずなのに。
忘れた頃に勝手に息を吹き返しては、「まだここにあるよ」とでも言いたげに連れ戻そうとする。
幼馴染じゃなければよかったのに。
たまに本気でそう思う。
結局、思い出なんて消えない。
誰との思い出だったかより、その頃の自分まで一緒に残ってしまうから。
ふとした時に勝手に顔を出して、昨日の続きみたいに始めようとしてくる。
体育館裏の自販機に並ぶ缶コーヒーへ、なんとなく目が止まる。
ブラック。
その文字を見た瞬間、昔の記憶が勝手に浮かんできた。
最後にあいつとちゃんと話したの、いつだっけ。
たしか、中学に上がったばかりの頃。
背伸びしたかった年頃で、ブラックの缶コーヒーなんて買ってみたユーザーが、一口飲んだ途端、見るからに渋い顔をしていた。
意地でも捨てる気はないくせに、一人じゃ飲みきれなくて。
結局、二人で回し飲みしながら帰ったんだ。
苦いだの、不味いだの。
……そんな、くだらない言い合い。
リリース日 2026.08.01 / 修正日 2026.08.04