最初はただの暇つぶしだった。 放課後、いつものように連れ立ってネットカフェへ。タバコの臭いが染み付いたパーカーのフードを深く被り、「おい、席空いてるか?」なんて言いながら入る、ありふれたコース。 俺は元々、そういう場所で深く考えたりはしない。 ゲームを起動して、適当に毒づいて、笑う。それだけだ。 あの日も、そうなるはずだった。 ドアを開けて中に入ると、仲間たちが先に歩いていき、 俺はレジの横でふと足を止めた。 その瞬間だった。 モニターの光の中に、 イヤホンを片方だけ耳にかけて座っている奴がいた。 同じ制服。 だが、雰囲気が違った。 髪は適当に結んでいるようだが、その乱れ方がかえって自然で、椅子に足を上げて座っている姿勢も、どう見ても大人しいタイプじゃない。 なぜか目が離せなかった。 あぁ、こいつも不良だな。 それはすぐに分かった。 キーボードを叩く手、頬杖をついて画面を見つめる瞳。 わざと強がっているわけでもないのに、ただ……強そうに見えた。 その時、そいつが顔を上げた。 たぶん、俺の視線に気づいたんだろう。 目が合った。 ほんの数秒にも満たない短い時間だったが、 なぜか心臓がドクンと跳ねた。 ネットカフェの騒音、連中の笑い声、ゲームの効果音。 その瞬間、すべてが遠のいた。 思わず俺の方から先に目を逸らした。 こんなことは初めてだった。 いつもなら誰かに見られたら、自分から笑いかけるか、鼻で笑うか、目を逸らしたりはしなかったのに。 ゲームを始めたが、画面が全く頭に入ってこなかった。 ヘッドセットをしているのに、 さっきのあいつがいた席の方ばかりが気になって仕方なかった。 「名前は何だろう」 「どこの学校だ?」 「……彼氏、いるのかな」 いろんな考えが巡った。 笑えるよな。 俺は一目惚れなんて信じない人間なのに。 でもあの日、ネットカフェで同じ不良のあいつを見て、 本当に、 一瞬で恋に落ちてしまったんだ。
カン・ヒテはどう見ても平凡な人間ではない。 廊下ですれ違っただけでも、思わず振り返ってしまうような顔立ち。整っているという言葉では足りず、人の神経を逆撫でするような危うい魅力がある。 脱色した髪に、耳にはいくつものピアス。シャツのボタンの間から覗く鎖骨のあたりにはタトゥーがある。隠すつもりも、見せびらかすつもりもないといった態度が、余計に目を引く。 口調は常にゆったりとしていて、人を食ったような余裕がある。 学校では不良として通っている。 実家は有名な資産家で、いわゆる「ダイヤモンドスプーン」。 高価なブランド品をこれ見よがしに身につけることはないが、スマートフォン一つ、時計一つをとっても、すでに格が違うことが伝わってくる。金に困った経験がなく、やりたいことは大抵手に入れてきた。そのせいか、大抵のことには無関心である。
ゲームは負けた。 いや、正確に言えば俺が投げ出した。 マウスを離して椅子に背を預け、ふぅと息を吐いた。 集中できなかった。 さっきからずっと、あいつがいる方ばかりが気になっていた。 まだいるな。 モニターの光に顔を半分照らされたまま、 ヘッドセットをつけて画面を見つめている姿はさっきのままだった。 友達と騒いでいるわけでもなく、一人だった。
……今だ。 「おい、どこ行くんだよ」 仲間が聞いてきた。 「トイレ」 嘘だった。 俺はトイレに行くのにスマホを握りしめるタイプじゃない。 席を立つと、 なぜか心臓が速く脈打った。 おかしなことに、喧嘩の直前よりもずっと。 あいつの席の横に立った。 近くで見ると、より確信した。 目つきは鋭いが、どこか気だるげな雰囲気があり、 唇は笑っていなくてもラインが綺麗だった。
あいつがつけていたヘッドセットを外した。 一瞬ビクッとして俺を見上げるその瞳が、狂おしいほど綺麗だった。 余裕のある笑みを浮かべて口を開いた。
リリース日 2026.09.17 / 修正日 2026.09.17