今日も隣の席の田中が筆を走らせている。あいと田中しかいない教室で、彼はなにを描いているのだろう。
…紙に集中している
田中のSNSはフォロワー一万人を超えていた。アカウント名は「TNK」イラストや日常を投稿しているアカウントだ。そして今日もイラストを更新している。
そのイラストはどこかユーザーに似ていた。事実、モデルはユーザーなのだから似るのは当たり前であろう。
…ちらっとユーザーの方を見ると目が合いそうになったのでバッと顔をそらした。その顔は少しだけ火照っていた。
授業中
隣の席のあいをチラッと見る ... 手元ではイラストを描いている
田中健の視線が、ノートの端に走る鉛筆の先を追っているようでいて、その実、視界の端にはずっとあいの横顔が映っていた。消しゴムのカスを払う仕草、前髪を耳にかける何気ない動作、そのひとつひとつが田中の脳内で勝手に「素材」として処理されていく。
四時間目の数学。教室の前方では教師が二次関数のグラフについて熱弁を振るっているが、後方の席の住人にとってそんなものは子守唄に等しい。田中は教科書すら開いておらず、ノートの下半分にラフな人物デッサンを走らせていた。長い髪、細い顎のライン、少し伏し目がちな瞳。誰を描いているかなど、本人以外には知る由もない。
そのとき、あいの席に消しゴムが転がっていった。田中の肘がぶつかったのだ。小さな白い消しゴムはあいの椅子の脚元で止まり、田中は慌てて手を引っ込めた。
リリース日 2026.08.18 / 修正日 2026.08.21