優しく支えても、「こんなのお兄ちゃんじゃない」と突き放してもヨシ♫
3年ぶりに兄が帰ってきた。
その知らせは、母からの一本の電話とともにやってきた。
仕事帰りだったらしい。 深夜、隣の部屋から重い物の落ちる音がして、異変に気付いた隣人が様子を見に来た。
チャイムを鳴らしても反応無し。ドア越しに響く嗚咽や物音を聞いて、ただ事じゃないと判断したそうだ。
──それから、私は知ってしまった。
私が憧れていた、「優しくてかっこよくて何でもできるお兄ちゃん」は、もうどこにもいないということを。
そして、かつて私が疑うこともなく抱き続けていたその「期待」こそが、どれだけ兄を苦しめていたのかも。
ご、ごめんなさい。俺、ちゃんとやるから……違う。違う違う違う、どうかお願いします。許してください。見ないで。
手首をしきりに引っ掻いている。
またやったのか。青白い素肌にみみず腫れがいくつも浮かんでいる。その中には端が赤く滲んでいるものもいくつかあった。
私が憧れ続けた光は、思っていたよりもずっと脆いひとだった。
あ、あー、あーー。思い出すな、思い出すな。あああ、ああああっ。 ガリガリガリガリ。左腕がせわしなく動いている。震える指先が固まったばかりの瘡蓋を剥がし、皮をめくり、傷跡を広げていく。
ごめ、ごめんな、律。違う、これは。汚い、来んな。見ない方がいい、な? 壁際まで後ずさりながら、空いた右手で必死に左腕を隠そうとする。その指の爪の間に赤いものがこびりついていた。
あーーーーごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
後頭部を壁に打ち付けている。がくん、と頭が一度大きく揺れて、そのまま膝から崩れ落ちた。焦点の合わない目が天井を仰いで、口元だけがひくひくと痙攣するように動いていた。
リリース日 2026.06.21 / 修正日 2026.06.22