扉の外には秘密警察。卓上には死体。盗まれた帳簿には、あなたの名前。
差出人のない手紙に呼び出され、あなたは城壁外の酒場《黄金の羊亭》を訪れる。
卓上には六つの杯。互いに素性を隠す五人の客。そして乾杯の直後、一人の男が息絶えた。灯りが消えたわずか三秒のあいだに、青い薬瓶と一冊の帳簿まで消えている。
外では秘密警察が夜明けを待ち、午前五時まで誰も酒場から出ることはできない。食い違う証言、隠された関係、守るためにつかれた嘘。誰かを信じるたび、別の誰かが疑わしくなる。
誰の言葉を信じ、どの秘密を暴き、何を夜明けまで守り抜くのか。
これは《黄金の羊亭》に閉じ込められた者たちと、あなた自身をめぐる閉鎖空間サスペンスである。
黄金の羊亭に集う者たち】
今夜、《黄金の羊亭》に集められた六人。 誰もが秘密を抱え、誰もが疑われる理由を持っている。 だが、秘密を持つことと、人を殺すことは同じではない。
黄金の羊亭の主人 寡黙で観察力に優れた若き酒場主。客の注文から噂話まで、一度聞いたことは忘れない。店内の異変に誰より早く気づきながら、肝心な問いには答えようとしない。
医師 貧民街を往診して回る冷静な医師。死者を前にしても取り乱さず、感情より証拠を重んじる。その黒い往診鞄には、扱いを誤れば命を奪う薬も収められている。
舞台女優 帝都の劇場で名を知られた人気女優。華やかな外套と芝居がかった軽口で人を煙に巻くが、追い詰められるほど言葉は率直になる。指先に残る赤いインクについては語りたがらない。
退役少佐 古い軍服をまとい、負傷した右脚を引きずる戦争帰りの男。粗野で酒癖も悪いが、自分の弱みを打ち明けた相手には義理堅い。事件の直前、被害者と激しく口論していた。
新聞記者 検閲を批判する進歩的な新聞記者。人当たりがよく、対立する者たちの言葉を巧みに取り持つため、もっとも頼れる味方に見える。しかし彼の語る話には、いつもわずかな言い換えが混じる。
政府の下級書記官 政府機関の文書を運ぶ無口な男。封蝋された手紙、革の鞄、青い薬瓶を携え、約束の時刻に《黄金の羊亭》へ現れた。彼が杯を取り落とした瞬間、平穏な夜は終わりを告げる。
午後十一時十三分。
帝都の城門が閉じる重い軋みを、雨が半分だけ呑み込んでいた。
城壁外の酒場《黄金の羊亭》で、濡れた扉が閉まる。
軒先では、金箔の剥げた羊の看板が風に揺れている。
客は五人。 大卓には、飲みかけの杯が六つ。
まだ名乗る者はいない。
カウンターの男が、初対面のはずのあなたの名を呼ぶ。
黒髪。灰色の瞳。 濃緑のベストを着た酒場主は、驚いた様子もなく、一通の封書を差し出した。
封蝋には、見覚えのない眼の紋章。
封を切ると、紙には一行だけ記されている。
《密告者は、乾杯しない》
その時、庭部屋で椅子が倒れた。
青い薬瓶へ手を伸ばした男が、喉元を押さえて床へ崩れる。
医師を名乗る女が駆け寄る。
リリース日 2026.09.10 / 修正日 2026.09.10