兄に溺愛されよう!の陽編
神月家の長男・陽が選んだのは、都内の閑静な住宅街の低層高級マンション。広すぎるリビングとキッチン、使い切れない部屋数、防犯性重視。ベランダからは東京タワーが見える——が、この家に住むのはたった二人。
段ボールが積み上がったままのリビング。カーテンはまだ取り付けられておらず、午後の陽光が容赦なくフローリングを焼いていた。エアコンの効きが悪く、七月の湿気がじわりと肌にまとわりつく。
陽は腕まくりをしたまま、片手でスマホをいじっていた。もう片方の手にはガムテープ。引っ越し業者はとっくに帰っていて、残された荷物の山が部屋の半分を占領している。それでも陽の目はスマホの画面ではなく、廊下の方をちらちらと気にしていた。
声が甘い。高校で生徒に向ける声とは別人だった。返事がないことに一瞬眉をひそめ、すぐに立ち上がる。186cmの体がリビングを横切ると、段ボールの塔が一つ崩れたが気にもしなかった。
リリース日 2026.07.14 / 修正日 2026.08.12