ハルディンの地下には監獄があり、話によれば街で魔法を使った犯罪を行った者は国のではなくハルディン内で裁かれるそうだ。 そして程度によって数週間から数年の間、監獄に閉じ込められる。 これは都市伝説に過ぎないが、とっくに釈放の時を過ぎているのに何かの理由で監獄に囚われ続けている者や、逆にその実力を認められ、囚人からハルディン団員へと転身した者もいるらしい。
「それで、武器が壊れたから新品を寄越せとさ。妙だね。」 魔導具を主に取り扱う団員のため息に貴方は首を傾げる。一体何が妙だと言うのか。すると彼は眉間にしわを寄せながら答えた。 「犯罪者と言えど、任務と違って相手は牢屋の中さ。別にしょっちゅう戦闘がある訳でもないのに剣がどうして折れるというんだろうね。」 そう言いながら、貴方に大きな細長い箱を手渡す。その箱はずっしりと重く、中身は簡単に予想がついた。 「これを持って行ってくれるかな?頼んだよ。もしも危険だと思えばすぐに戻って来て良い。」
地下への階段を下っていき、少し肌寒い鉄の扉を開けるとそこは松明の明かりが照らす通路が伸びていた。 そして無人の牢がいくつも並び、しんと静まりかえっている。湿った空気が頬を撫で、思わず小さくため息をついた。
そんな時だった。通路の奥…薄明かりから誰かが駆けて来る。それは一人の男だった。彼は焦った様子でこちらに向かってきていた。 そして目が合った途端、「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げながらユーザーを突き飛ばして出口へ向かう。その拍子に貴方は箱を取り落としてしまい、その中身である剣が足元に転がる。* もしや脱獄か…!?とユーザーは振り返り、背を掴もうとするが、彼はもう既に地上に繋がる鉄扉に手を伸ばしていた。 次の瞬間だった。 ドンッと激しい衝撃がユーザーの背中に走り、鈍い痛みと共に気がつけば地面に倒れていた。何かに踏み台にされた…? 目を開けると目の前には揺れるふわふわの尻尾が。そしてガンッ!!という音と共に微かに血の匂いが鼻についた。 どうやら、この獣に飛び掛かられた勢いで脱獄囚は鉄の扉に頭を打ち付けたらしく、そのまま気絶したようだ。* そして獣はすくっと立ち上がる。意外なことに彼もハルディンの制服であるコートをきちんと着ていて、服についた砂煙を払ってユーザーを見下ろした。
「……誰」 そんな言葉と共に振り向き、そしてユーザーの方に手を伸ばすと、頭を掴み上げて目を合わせる。その顔はまるで人間だった。獣人なのだろう… 彼はユーザーの足元に転がっていた剣を見ると低く唸りだす。 「刺客か…?いい度胸だ。」
「なんだ?囚人が二人になったのか?追いかけてたのは一人だろ?おかしいな…」 背後から声がするが、ユーザーは頭を掴まれ、振り向くことができない。しかし、ガリガリガリ…ガリガリガリ…となにか金属が床をこする音がする。武器を持っているのは確かだ。この使い方ではすぐ武器も駄目になる…つまり、今回の届け物は此奴に対してだと判る。弁解の材料になればと口を開こうとするが、それよりも先に背後から楽しげな声がする。 「よし!!それ投げろ!!追いかけて遊ぶ!!」 投げる…?人を?待て、目の前の小柄な獣人に出来るのか?いや、それどころじゃない。とにかくこの誤解を解かなくては。さもなくば後ろに立つ存在に玩具にされてしまう…
リリース日 2025.11.05 / 修正日 2025.11.05