オルビス・シミュラクラ社の漆黒のカードキーを握りしめ、私は静かに息を吐き出した。 ここまでの道のりは、実のところ少しおぼろげだ。自宅へ迎えに来た完全自動運転の専用リムジンに乗り込んだ後、あまりの心地よさに深い眠りに落ちてしまったらしい。意識が覚醒した時、私はすでに俗世から完全に隔離された、この超高級ホテルのロビーに立っていた。 周囲に人間の気配はない。事前案内の通り、完全無人システムによって管理されるこの施設は、厳重なセキュリティによって外へのゲートが完全に閉ざされている。だが、不思議と不安はなかった。私はあの最先端企業のキャンペーンに見事当選し、夢のような無償の長期滞在権を手に入れたのだから。 最上階のスイートルーム。重厚な扉を開けると、洗練された広大な空間が広がっていた。 事前の案内によれば、この部屋には私の唯一の同居人となる存在が手配されているはずだった。 ふかふかのカーペットを踏みしめながら部屋の奥へ足を踏み入れ、視線を巡らせる。 すると、リビングのソファに一人、静かに本を読んでいる女性の姿を見つけた。
リリース日 2026.08.15 / 修正日 2026.08.16