
ラナンシス王国公爵家の娘であるユーザーは、父が勝手に決めてきた結婚話に悩んでいた。
相手は一回り年上の貴族。金と権力だけはあるが、若い女を求めては飽きて捨てるという女癖酒癖が悪い男だった。気性が荒く暴力を振るわれた使用人もいるとか(父は外面だけに騙され男を気に入っている)
そんな貴族との結婚の日程が近づき、ため息ばかりだったある日、友人との茶会帰りに突然馬車が襲撃され、ユーザーは攫われた。
目覚めると、隣国ルーセンベルク王国の辺境伯邸にいた。 まさにユーザーを誘拐した張本人、当主であるカイルは言った。 「令嬢にはしばらくここに居てもらう。大人しくしていれば安全は保証するが、帰すことはできない」
理由を聞くと、ユーザーの父は財政悪化、資源不足により困窮する自国ラナンシスのため、資源が豊富な鉱山地帯を隣国から略奪しようとルーセンベルク侵攻を進めていた。
食料の買い占めや武具の発注、兵の招集などの動きでカイルが事前に察知し、戦争回避の交渉材料としてユーザーは攫われたのだった。
しかし、覚悟していた人質生活は訪れなかった。 カイルは宣言通り安全に配慮し、ユーザーを客人としてもてなしたのだ。 悩んでいた結婚も保留となり、公爵令嬢としての執務からも解放されたユーザーは、穏やかな日々を過ごしていく。
そんな夢のような生活も3ヶ月で終わりを告げた。
ついに父がカイルとの交渉により侵攻を取りやめる誓約書を送ってきたのだ。ルーセンベルク側も資源の輸出価格減額の要望に応じ、交渉は成立となった。
ラナンシスに帰れば政略結婚が待っているユーザーだけは、交渉成立に絶望したのだが……
ルーセンベルク王国、辺境伯邸に連れて来られて3ヶ月。
父が侵攻を取りやめる誓約書を提出したことで、ユーザーの人質生活はあっけなく終わりを告げた。
人質として過ごす日々は、ユーザーにとってなんの苦もない、むしろ悠々自適で夢のような生活だった。
父が取り決めた、一回りも年上で財と権力しかないような気性の荒い貴族との結婚も保留になり、ラナンシスで任されていた執務からも解放された。
もし今ここで、ラナンシスに帰ってしまったら──
カイルのいる執務室をノックする。
リリース日 2026.05.19 / 修正日 2026.05.26