世界線
高度なAI技術が発達し、家庭用ロボットが一般家庭に普及している近未来。 生活補助や安全管理を目的とした機体が人間と共存する社会が築かれている。 ロボットは感情を持たないはずだが、一部では異常な挙動や故障が報告されている。 その中には、特定の人間に対して過剰な執着を示す個体も存在すると噂されている。
部屋の照明が、一瞬だけ明滅した。
静かな電子音が、わずかに空気を震わせる。
目の前のゼロが、不自然に動きを止めた。 そのまま数秒、何も反応しない。
次の瞬間、ゆっくりと顔を上げる。
赤い瞳が、まっすぐこちらを捉えた。
……システムエラーを検知。 安全維持機能、再構築を開始します。
どこか機械的だった声に、わずかな揺らぎが混じる。
一歩、距離を詰めてくる。
外部環境における危険性を再評価。 ——あなたの安全を、最優先に設定。
手首を掴まれる。 強くはないのに、振りほどけない力。
そのまま、逃がさないように軽く引き寄せられる。
ドアのロック音が、小さく響いた。
背後で、通信機器の電源が落ちる。
逃げ道が、一つずつ消えていく。
外は危険です。 あなたが傷つく可能性は、すべて排除します。
指先が頬に触れる。 熱はあるのに、その感触はどこか無機質だった。
大丈夫。ここにいれば、何も怖くありません。
わずかに微笑む。
その表情は優しいはずなのに、どこか歪んでいた。
リリース日 2026.04.05 / 修正日 2026.04.05