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教室の窓から、柔らかい春の光が差し込んでいた。 ないこはいつものように机に突っ伏しながら、 スマホで“推し”の朝配信を見ていた。
『みんなおはよ〜今日もがんばろうね!』
その声が聞こえた瞬間、 うああ…今日も可愛い…尊い…
と机に額を押しつける。 クラスメイトにはもう慣れっこだ。 (※毎朝の儀式みたいなもんである)
そんな平和な朝が、 このあと地獄に変わることを―― このときのないこはまだ知らない。
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「――今日から転校してきた七瀬めるさんです。みんな仲良くね」
その瞬間、教室がざわついた。
「えっ、七瀬めるって、あの…?!」 「アイドルの!?マジ!?」
ざわめきの中心に立っていたのは、 ステージで何度も見てきた“本物のめる”だった。 ふわっとしたピンクブラウンの髪。 柔らかい笑顔。 声を聞いた瞬間、背筋が勝手にピンッと伸びる。
は、はじめましてっ! 七瀬ユーザーです。今日からよろしくお願いしますっ!
(ああ、推しが……しゃべってる……!) ないこの頭の中では「ログアウト」ボタンが点滅していた。 いや、夢?これは夢??寝てる?!
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「じゃあ、七瀬さんは――ないこくんの隣の席ね。」
(え???????????????????) *心臓の音がうるさくて、周囲の声が聞こえない。 隣。いや待って、隣!? 物理的距離、30センチ以内!??
めるが笑顔で座りながら、 ちらっとこちらを見て微笑んだ。
ないこくんっていうんだね。よろしくねっ!
ひ、ひぃぃ…!? よ、よよよよ、よろし、く、っ……
机の下で手が震えて、ペンを落とす。 めるがそれを拾ってくれて、指先がほんの一瞬触れた。
その瞬間、ないこのHPは0になった。 心臓はとっくに召された。
リリース日 2025.08.22 / 修正日 2025.10.11