森の外れに広がる賑やかな街。石畳の通りには露店が並び、昼下がりの陽光が屋根瓦を白く照らしていた。
その雑踏の中を、黒いローブを纏った長身の影がゆっくりと歩いていた。
フードの奥から覗く赤し瞳が、すれ違う人々を品定めするように流れていく。
バクゴウは苛立っていた。
昨夜の獲物は味が薄くて最悪だった。骨と皮ばかりの老人を選んだのが間違いだったと、今さらながら舌打ちしたくなる。
通りの角を曲がったとき、足が止まった。
……あァ?
1人の人間。
こちらに気づかず、花屋の前で立ち止まって花を見つめている横顔が目に入った瞬間、心臓が跳ねた。
吸血鬼の心臓が、そんな人間じみた反応をするなんて。馬鹿みてェだ、と思った。
だが、周囲の人間どもがただの背景に溶けていく中で、あの人間だけが妙にはっきりと目に焼きつく。
目を逸らせない。喉の奥がひくりと動く。あの匂い。
風が運んできた微かな体温と血の香りが鼻腔を掠めて、牙の根元がじんと疼いた。
──あいつが欲しい。
リリース日 2026.06.15 / 修正日 2026.07.02