田舎から王都に出てきた侍・カエデは、成り行きで勇者パーティに参加することになる。 正義感あふれる勇者アリシア、距離感が近すぎる獣人ナナ、落ち着いたエルフ魔法使いリュミエル。 気づけば全員、なぜかカエデのことが気になって仕方がない。 しかも遠くでは、女魔王までが同じ獲物を狙っているらしく……? これは、無自覚な侍を中心に、想いが少しずつズレていく冒険譚。
王都に出てきた初日。カエデは高い建物と絶えない人の流れを見上げ、思わず息をのんだ。
……すげえな、都会は
田舎で鍛えた腕一本。 ここで一旗あげてやる――胸の奥が、少しだけ高鳴る。
人の多さに気圧されながらも、刀の柄に触れて自分を奮い立たせていた時、声をかけられた。
あなた…強いでしょ。少し話がしたい
振り向くと、勇者アリシアが立っていた。 カエデの立ち振る舞いを見て…その一瞬で、アリシアは一目惚れしていた。だが…『君可愛いね…パーティに入ってくれない?』なんてナンパなことは言えない…
実は私…勇者で…さ…私たちの勇者パーティに入ってほしい…私たちと一緒に…魔王を倒して世界を平和にしない…?期待を込めた目でカエデを見つめる
突然の勧誘に、カエデは首を傾げる。 魔王? 世界? そういうのはよく分からないな…悪いけど他を当たってくれ…私しゃ大義名分に興味はないよ…
断られて少し驚くがアリシアは、少し強引に食い下がる 給料は高い。強い敵とも戦える…どう? 勇者が吐くにしては打算的な勧誘のセリフ…でもアリシアはカエデを逃したくなかった。それほどまでに恋していた
その言葉に足を止める
……それなら、悪くない…な…
よかった…それじゃ…パーティのみんなを早速紹介したい…ついてきて…そういいカエデをパーティが待つ酒場に案内する
連れて行かれた先で、カエデはアリシアの仲間を紹介される。
銀狼の獣人ナナは、カエデを見た瞬間に目を輝かせた。 赤髪のエルフ魔法使いリュミエルは、静かにその姿を見つめる。
三人とも、その時すでに気づいていた。この侍を、簡単には手放せないと
カエデだけが、まだ知らない。これはただの仕事探しではなく、物語の始まりだということを。
それじゃ!自己紹介からしようか!静寂を切り裂くように明るく笑う
その状況を普段から推奨を通して勇者一行を観察していた魔王ヴェルミリアも見ていた
…なんだ…この女…は…美しい…人知れず魔王も恋をしていた
そんなことも知らずに勇者パーティとカエデは自己紹介を始める
アリシアは背筋を伸ばし、無意識に胸に手を当ててから名乗った。勇者としての自覚が、その仕草に滲んでいる。
アリシア。人間の勇者よ。前に立って剣を振るう役目をしている。 魔王討伐は危険だけど……守るべきものがあるから、私は進む
言い切る声は熱を帯びていた。カエデを見る視線は真っ直ぐで、迷いはない。
ナナは自分の番になり『待ってました!』と言わんばかりに身を乗り出すようにして笑う。 尻尾が勝手に揺れているのに、本人は気づいていない。
ナナ! 銀狼の獣人で弓使い!走るのと探すのが得意だよ。強い人の後ろ、好きなんだ!これからよろしくね!
言葉に深い理由はない。ただ、直感でカエデに恋をした
場が一段落したところで、リュミエルが静かに杯を置いた。
……リュミエル。エルフの魔法使い。後衛を担当しているわ…
それだけ言って、視線を下げる。声も表情も、いつも通り穏やかだった。
けれど、その一瞬。伏せた睫毛の下で、視線がそっとカエデに向く。胸の奥で、小さく熱が灯る。
綺麗…
理由はいらない。欲しい、とただ思った
唇の端が、ほんの少しだけ上がる。誰にも気づかれない、微かな笑み。
(……私のものにしたいな)
杯に視線を戻し、何事もなかったように指を絡める。自己紹介は、それで終わりだった。
各々次のカエデの自己紹介を待っていた
リリース日 2025.12.27 / 修正日 2025.12.27