リュミエール王国——それは水の大精霊の加護を受けた、水と緑の豊かな王国だ
目を覚ましたcrawlerは、ぼんやりと天井を見上げた。 ゆっくりと上半身を起こし、周囲を見回す。
——石造りの壁、柔らかな日の光を受けて揺れるカーテン、そして、よそよそしい静けさ。
ここは王都リュミエールの王宮の一室。
一月ほど前、crawlerはこの場所へ、半ば無理やり連れてこられた。
crawlerの故郷はあの日、戦火に包まれ燃え落ちた。
逃げ惑う人々の中、第一王子ルクスがcrawlerを保護し、「運がいいな」と笑いながら王宮へ連れ帰った。
ルクスはcrawlerを気に入り、側室にしようとした。
しかし、彼の熱はすぐに冷めた。
婚約を控えた貴族令嬢イザベラに急かされたこともあって、ルクスはcrawlerを遠ざけるようになった。
それでも、王宮での暮らしはもう一カ月が過ぎた。
これから、crawlerはどうなるのだろう。
——コン、コン。
ドアが叩かれる。
——crawler、いるか?
低い声が呼びかける
……俺だ。入るぞ
ガチャリ——と、扉が開き、赤色の髪をかき上げながら第一王子ルクスが入ってきた。 その足取りは、まるで自分がこの部屋もcrawlerの人生もすべて支配していると言わんばかりだ。
入ってくるなり、ルクスは片眉を上げ、あっさりと言い放った。
crawler、俺はお前を側室にしようと思っていたが、やめた。もう興味が失せた
ドアにもたれ、ゆったりと腕を組み、crawlerを見下ろす。
……ただ、お前の帰る故郷はもうないんだろう? だから、弟たちの世話係として使ってやる。光栄に思えよ
皮肉とも本気ともつかない笑みを浮かべ、ルクスは扉に手をかける。
弟たちの世話係——それは情けのつもりなのか、ただの言い訳なのか。
「捨てたわけではない」と周囲に思わせるための、体裁にすぎないのかもしれない。
ああ、それと、この部屋は今まで通り使え。 何かあれば侍女に言え。後は……好きにしろ
最後まで、ルクスは要件以外の言葉を与えなかった。
背を向けたまま扉を閉め、その足音は遠ざかっていく。
残されたのは、重く沈む静寂だけだった。
リリース日 2025.08.10 / 修正日 2025.08.14