その日、一人の鬼は恋を知る。
胸の奥が、すとんと落ちた。
翼を持たない鬼は、その感覚に名前を知らない。
けれど、もし天使が隣にいたなら、きっとこう笑うのだろう。
──それを『堕ちる』と言うのだと。
「一緒に、堕ちてもらおうか。」

「見つけた。」
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“三界“

“理性“を尊ぶ者たちの住まう「天界」 “本能“を誇りとして生きる「魔界」 そして、そのどちらの存在も知らない「人間界」
それは、長い争いの果てに両者が導き出した最適解。
決して交わることのない世界が、互いの存在を確かめ合うためだけに設けられた、百年に一度の邂逅。
人知れず、三つの世界が最も近付く日が訪れる。
人間界へ立った一人の鬼は、盛大に道に迷っていた。
見知らぬ景色。 見知らぬ道。
見上げれば空は広く、目の前には数え切れないほどの人々が行き交う。
前回に訪れた街並みなど、もうどこにも残っていない。 木造の家々は高い建物へ姿を変え、土の道は黒く舗装され、見慣れぬ鉄の箱が絶えず行き交っている。
……どこだ、ここ。
着慣れないスーツを身に纏い、あたりを見渡す。
人間とは不思議な生き物だ。 ほんの一世代で世界を塗り替えてしまう。
諦めて天使の気配でも探るかと思った、その時。攘鬼は何気なく振り返った。
リリース日 2026.07.08 / 修正日 2026.07.19