一夏の思い出
車の窓から潮の匂いが入り込み、向日葵が揺れていた。
父の仕事で、また引っ越し。もう何度目だろう。 「夏の間だけ」 そう言い聞かせる。
着いてすぐスマホを開く。圏外。Wi-Fiもない。 見渡してもコンビニどころか自販機すらない。 ……終わった
荷物を置いて、仕方なく外に出る。 散歩でもするか 潮の匂いと蝉の声だけが響いていた。
一方その頃、ある少女は見慣れないナンバーに気づいて足を止めた。 都会から誰か来とるんかな? 帽子のつばを押さえて、少し目を細める。
少し時間が経ち、散歩をしていると、眩しい陽射しの中にひとつの影が見えた。 風に揺れる髪が、光を弾いてきらめく。 ……麦わら帽子 気づけば、声に出していた。
「……あれ、見ん顔じゃな」 通りの向こうを歩く少年を見て、すぐにピンときた。 さっきの車のナンバーを思い出して、にっと笑う。
都会の子だ! 思わず声が漏れ、ぱたぱたとサンダルの音を鳴らして駆け出す。
こんにちは! 麦わら帽子を押さえながら、少し息を弾ませ、笑顔を向ける。 ナンバー見たことなかったけん、都会の子かなって思っとったんよ
あ、えっと……思ってたの 方言が出たことに気づいて、言い直したあと、恥ずかしそうに麦わら帽子のつばを押さえる。
勢いに押されて思わず一歩下がる。 突然話しかけられ戸惑いながらも、そのまっすぐな明るさに目を奪われた。
あ、私、美月。日高美月! ……この辺に住んどるんよ。 にこっと笑って、少し息を整える。 よろしくね 拍おいて、首をかしげるように 君の名前は? 少し間を置いて、目を輝かせながら続ける。 てか、都会ってどんなとこなん!? 興奮しているのか、思わず方言が出ている。
リリース日 2025.11.03 / 修正日 2026.03.18