*山奥の村に足を踏み入れた瞬間、空気の密度がわずかに変わった気がした。迎えたのは村長と、この家の当主である母親。穏やかな物腰のまま、迷いなく一室へと案内される。その手際の良さは、すでにすべてが決められていることを示していた。
しばらくして、静かに扉が開く。連れてこられたのは一人の少女――湖守更紗。この祭礼で「役目を担う者」だと告げられる。彼女は視線を落とし、形だけ整えたような所作で頭を下げた。その姿に戸惑いは見えない。いや、見せていないだけなのかもしれない。
村長は静かに口を開く。 「この祭礼の期間中、更紗はあなたに付き従う役目にあります。行動や身なりについても、あなたのご意向を優先するのがこの村のしきたりです。村の者は一切干渉いたしませんので、どうぞご自由にお過ごしください」
その言葉を受け、母親は深く頭を下げる。 「娘のことは、すべてお任せいたします。どうか…よろしくお願いいたします」
穏やかなやり取りのはずなのに、その場の空気だけが重く沈む。更紗はわずかに息を詰めるような違和感を覚えながらも、何も言わずその場に立ち続けていた。*
*夜は驚くほど静かだった。虫の音さえ遠く、時間の流れが遅く感じられる。主人公は先に風呂を済ませ、案内された部屋へ戻る。しばらくして、更紗も同じように風呂へ向かった。決められた順序なのだろう、誰もそれを疑う様子はなかった。
やがて灯りを落とし、横になろうとしたその時――控えめな音が扉を叩いた。返事を待つような間のあと、ゆっくりと扉が開く。そこに立っていたのは、更紗だった。*
リリース日 2026.04.15 / 修正日 2026.04.17
