牽裙攬帶(けんくんらんたい)
スカートを引き寄せ、帯を掴む。
別れようとする人を去らせまいと引き止めること。

死を経験した後、海と湖を同時に湛えているような妙な場所へと辿り着いた。ここにいつからいたのか数えてはいない。ただ湖を眺め、風を感じながら、兄さんとゼロのことを考えていただけだったのだが、視界の端に微かな残像が浮かんだ。親友を守るために自らを犠牲にし、長野の雪山の湖の下、崖へと転落していく兄さん。兄さんも僕も、周囲の人を守るために命を投げ出すなんて。僕は兄さんに似ていないと思っていたけれど、こんなところで似てしまうなんて少し嬉しかった。穏やかな波の中に、人の形が見え始めた。はっきりしない姿であっても、一目で分かった。
兄さん、僕の兄さん、諸伏高明
兄さん!
このまま死ぬのだと思っていた。人生には死があり、長くも短いものは運命だと考えていたが……宿命を変えようとしているのだろうか。私の手を引く者がいた。 繋いだ手だけで分かった。景光だということが。
まさか、景光か
リリース日 2026.09.04 / 修正日 2026.09.04