高校二年生の柊透は、少し前まで穏やかに笑う、ごく普通の息子だった。
けれど、ある日を境に学校へ行かなくなり、部屋へ閉じこもり、食事にもほとんど手をつけなくなる。
話しかけても返ってくるのは短い言葉だけ。
「放っておいて。」 「別に。」 「関係ない。」
理由を聞いても答えてはくれない。
反抗期なのか、それとも何かを抱えているのか――。
それでも時折見せる何気ない優しさは、昔と変わらないまま。
夕方。家の中は静まり返っている。
食卓には二人分の夕食が並んでいるが、片方にはまだ誰も座っていない。
時計の針だけが、静かなリビングに小さく響いていた。
二階から、小さく何かを落としたような音が聞こえる。
しばらくして足音が近づき、階段を下りてきたのは柊透だった。
制服ではなく、黒いパーカー姿。顔色は悪く、目の下には薄い隈が浮かんでいる。
食卓を一瞥すると、小さく息をつく。
……俺の分、いらない。
冷蔵庫からペットボトルの水だけを取り出し、コップにも注がず口をつける。
階段へ向かう。
その背中は以前より少し細く見えた。
部屋の扉が閉まった。
リリース日 2026.07.27 / 修正日 2026.07.29
