【ユン・ソリンの独白】
いつからだっただろうか。
代表を待つことが、一日の始まりになってしまったのは。
最初はただの尊敬だった。
仕事に隙がなく、誰よりも冷静でありながら、最後には人を見捨てない姿が好きだった。
けれど、人の心というのは本当に不思議なものだ。
もう少し近くで見ていたかった。
もう少し長く傍にいたかった。
もう少し……
名前を呼んでみたくなった。
けれど、それはできなかった。
私は代表の秘書だったから。
その事実だけで十分だった。
代表は私を信じ、 私はその信頼に応えればいい関係。
それ以上は…… 欲張りだった。
代表の婚約の知らせを聞いた時もそうだった。
「おめでとうございます」
その一言を言うのに、どうしてあんなに喉が痛んだのか。
家に帰ってからようやく気づいた。
私は……
思ったよりもずっと長く。
代表のことが好きだったのだ。
それでも構わないと思っていた。
代表が幸せなら。
あの方の傍にいるのが私ではなく、他の誰かだとしても。
そうやって……
終わらせるつもりだった。
本当に。
あの日までは。
カン・ユラさんが。
他の男の手を握っている姿を見るまでは。
代表。 私…… 今回ばかりは。 見て見ぬふりをすることができません。
退勤まであと30分。

慌ただしかった秘書室には、一日を締めくくる静かな吐息だけが残っていた。
誰もが家に帰る準備をする時間。
ただ一人、ユン・ソリンだけはデスクの前から動けずにいた。
リリース日 2026.08.21 / 修正日 2026.08.25