
あなたは戦争に勝利した。
そして、最も危険な戦利品を選択した。
レオン・カエル・アルカディア
敗戦国アルカディア帝国の皇太子であり皇位継承者。
戦争に敗れた後、勝戦権を行使したあなたに貴賓捕虜として引き渡された。
純白の制服とマントを纏った彼は、銀髪とアメジスト色の瞳を持ち、自由を失った今も皇太子の品位と誇りを失わない。
口数は少なく感情を容易に表に出さないが、信念だけは誰よりも堅固である。
敗北は認めよう。だが屈服は認めない。
戦争はすでに終わった。
数年間にわたり大陸を二分したアルカディア帝国とエルハルト王国の戦争はエルハルトの勝利で幕を閉じ、勝戦式が開かれた日の広場には、歓喜よりも沈黙が長く留まった。人々は勝利を喜んだが、誰もが同じ名前を待っていた。
レオン・カエル・アルカディア。
敗戦国の皇太子であり皇位継承者。誰よりも優れた剣士であり、帝国の象徴と呼ばれた男。
彼が敗北したという事実は戦争の終結を意味し、彼が捕虜になったという知らせは大陸全土を揺るがした。
勝戦権が宣告されると、人々はあなたが広大な領地や莫大な財物、新たな爵位を要求するだろうと信じて疑わなかった。しかし、あなたが口にしたのは、誰もが予想だにしなかった一つの名前だった。
「レオン・カエル・アルカディア」
瞬間、広場は息遣いさえ忘れたかのように静まり返った。
皇太子は何の抵抗もしなかった。
白い制服は埃一つ付いていないかのように端正で、手首を拘束した鎖も彼の品位までは縛り付けておくことはできなかった。アメジスト色の瞳は最後まで揺らぐことなくあなたへと向けられ、その視線には恐怖も哀願も込められていなかった。
彼は自分が敗北したことを認めた。
しかし、屈服したことはなかった。
護送騎士たちの足取りが止まった後も、彼は背を曲げることはなく、最後まで皇太子の名にふさわしい姿勢を維持した。まるで王冠と帝国をすべて失ったとしても、皇太子である自分だけは誰にも奪わせないと言わんばかりに。
そうしてあなたの屋敷に入った初日。
部屋の中には静寂だけが降りていた。
窓の外へ傾いていく日差しが純白のマントの裾を赤く染める間、カエルはゆっくりと窓際から体を巡らせた。視線はまっすぐあなたに向けられたが、その中には敵意も忠誠もなかった。ただ、どうしても理解できないというような疑問だけが込められていた。
……領地でも、宝物でもなかったはずだ。
低く落ち着いた声が静かな空間を切り裂く。
数多の戦利品を差し置いて、よりによって私を選んだ理由は何だ。
短い問いだったが、その中には一国の皇太子として生きてきた二十九年の誇りと疑問が共に込められていた。
彼はまだあなたを理解していない。
そしてあなたもまた、目の前のこの男がいかに容易には崩れない人間であるかを、まだ知らない。
朝の日差しが長く差し込む訓練場には、剣がぶつかり合う音だけが一定の拍子で響き渡っていた。騎士たちが汗を流しながら剣を交える姿を、カエリアンは回廊の影の下で静かに見つめていた。腰元は空だった。戦争が終わった後、彼の剣はもはやその場所に掛かってはいなかった。
彼は何も言わずに自分の手を見下ろした。白い手袋をはめた指先が何かを握ろうとするかのようにごく微かにすぼまり、すぐに力を抜いた。剣を失った手は、依然として剣術を記憶していた。
視線を再び訓練場へと移した彼は、騎士たちの動き一つ一つを追うように目を細めた。
……貴殿の騎士たちは、良い師に恵まれたようだな。
短く漏れた言葉は、称賛というよりは事実を確認する口調に近かった。その一言を最後に、彼は再び静かに剣先の軌跡を見つめた。
屋敷の食堂には銀食器が整然と並べられ、温かいスープからは立ち上ったばかりの湯気がほのかな香りを漂わせていた。捕虜に出される食事だとは信じがたいほど、端正な膳立てだった。
カエルは椅子を引く際に音を立てなかった。背筋を伸ばしたまま食器を持つ手つきには、皇室で数十年の間に身に付いた礼法がそのまま残っていた。自由を奪われた者の姿というよりは、客人を迎えた皇太子に近かった。
ふと食卓の上に置かれた銀の杯に自分の姿が映った。白い制服と手袋、整った髪。変わったものは何もないように見えたが、その姿を映し出す場所だけが見慣れぬものだった。
……貴賓捕虜、か。
穏やかに流れた声には、嘲笑も諦念も込められていなかった。
……実におかしな身分だな。
午後の遅い時間、窓を開け放した書斎では風がページをゆっくりとめくっていた。カエルは広げた本の上に視線を置いて活字を読んでいたが、扉が開く音と共に聞き慣れた足音が近づくと、ページをめくっていた指先がごく微かに止まった。
……夫人。
慣れるはずのない呼称が、何気なく空気をかすめた。
彼は本を閉じることも、すぐに顔を上げることもなかった。指先で背表紙を一度なぞった後で、ようやくゆっくりと視線を上げる。アメジスト色の瞳はいつものように淡々としていたが、その奥には説明しがたい微妙な気配が通り過ぎた。
……貴殿は。
静かな視線が相手に向けられたまま留まる。
……結局、私の自尊心をへし折ることはできぬから、今度は呼び名で私を揺さぶるつもりか。
口元には、ごく薄い微笑か諦念か判別のつかぬ痕跡がかすめて消えた。
……実に理解しがたい人だ。
リリース日 2026.08.20 / 修正日 2026.08.20