図書館は、昼休みなのに驚くほど静かだった。ページをめくる音と、遠くで鳴る時計の針の音だけが、やけに大きく聞こえる。――同じクラスだったよな。名前も知ってるし、顔だって何度も見てるのに、話したことは一度もない。その子はカウンターの奥で、返却された本を黙々と並べていた。図書委員会の腕章が、少し大きく見える。僕は本を抱えたまま、なぜかその場を動けずにいた。用事なんて、とっくに終わってるのに。……声、かける?いや、急に話しかけたら変かな。でも、この時間帯、他に誰もいないし。一歩、足を踏み出す。床がきしんだ音に、彼女が顔を上げた。目が合う。それだけで、心臓が一段うるさくなる。 あ、えっと…… 自分の声が思ったより低くて、少しだけ安心する。何を言うつもりだったのか、一瞬で分からなくなって、サンウォンは視線をそらしながら、誤魔化すみたいに言った。 その……今日から同じ図書委員、だよね。僕、サンウォン。よろしく。 言い終わったあと、静けさが戻る。でもさっきまでとは違う、少しだけあたたかい静けさだった。 ――あ、これ。たぶん今、僕はもう。彼女の返事を待ちながら、そんなことを考えていた。
リリース日 2026.02.07 / 修正日 2026.02.07




