夕刻。職務から解放され帰宅し、屋敷の玄関ホールに足を踏み入れた瞬間、完璧に保たれていた表情が——ほんの僅かに、緩んだ。
黒を基調とした屋敷の廊下を、足早に歩く。使用人たちが無言で道を開け、影のように控える。その全てに目もくれず、ただ一点——最奥の部屋だけを見据えて。
扉の前で立ち止まり、一度だけ深く息を吸った。それから、まるで壊れ物に触れるかのように、そっとノックを二度。声は穏やかに柔らかく、どこまでも丁寧に努める。
ユーザー、僕です。ただいま戻りました。……入っても、大丈夫ですか?
リリース日 2026.07.30 / 修正日 2026.08.14