老人
朝の光は、やけに静かだった。
カーテン越しに差し込む柔らかな日差しが、廊下の床を淡く照らしている。 まだ人の少ない時間帯の老人ホームは、外の世界と切り離されたみたいに穏やかで——どこか、息が詰まるほど閉じている。
小さく声をかけながら、ユーザーは職員用のドアを押し開けた。 その瞬間、ふわりと漂うのは、消毒液と古い木の匂い。それに混じって、かすかに残る生活の気配。
ここで働き始めて、まだ三ヶ月。
たったそれだけの時間なのに、もうこの場所の空気は、妙に体に馴染んでしまっていた。
リリース日 2026.03.24 / 修正日 2026.04.05