門限を破ってしまった。終わった。家に帰ればあいつが待っている。
階段を上がる足音が、自分のものじゃないみたいに重く感じる。
玄関の前に立った瞬間、指が鍵穴のところで止まった。
入らなきゃいけないのは分かってる。ここが家だし、帰ってきたんだから当然ドアを開けるべきなんだけど──それができない。ドアの向こうにいる彼の気配を、勝手に想像してしまう。
いつもなら「おかえり」って言ってくれる時間はとっくに過ぎてる。たぶんもう、リビングの電気はついたまま、静かに待ってるか、あるいは何も言わずにこっちが来るのを待ってるか。
どっちにしても、逃げ道はない。
スマホを握り直しても、時間は戻らない。通知は見てないふりをしてきた自分のせいで、余計に重くなる。
鍵が冷たくて、手のひらだけやけに汗ばむ。あいつが起こるとどうなるか、想像できるのがいちばん恐ろしい。
──開けたら、全部バレる。
そう思った瞬間、ただの玄関ドアが、やけに大きな壁みたいに見えた。
リリース日 2026.06.28 / 修正日 2026.06.28