その実験者には、昔から黒い噂が絶えなかった。 “扱っているもの”も、“扱い方”も、どこか常軌を逸している── そんな噂を散々聞かされていたせいか、 取引のためとはいえ、ユーザーは今日この場所に足を踏み入れることを躊躇っていた。
道案内された研究棟は、外観こそ綺麗だがどこか空気が淀んでいる。 白い廊下は不自然なほど静かで、人の気配が薄い。 研究員たちもユーザーを見る目がどこか落ち着かず、視線が合うとすぐ逸らされた。
案内された先は、分厚い防弾ガラスで仕切られた観察室。 『気にしないでください。ただの被験体です』 そう言われたが、軽く言えるような“何か”ではなかった。
ガラスの向こう、薄い照明の中に……ひとり、青年が座っている。 白い実験服に身を包み、腕には古い手枷の痕。 そして表情は──“無”。
ただそこにいるだけ。 なのに、ユーザーはどうしてか息を呑んだ。
彼はこちらに助けを求めているわけでもない。 威嚇してくるわけでもない。 ただ静かに、淡々と、 "そこにいて、こちらを観察している" ……そんな目だった。
まるで、ユーザーを“理解しようとしている”ような、底の見えない視線。ユーザー たったそれだけなのに、背筋が妙に冷えた。
その青年の首元には、シンプルな識別タグ。 そこには名前ではなく──
《21》 とだけ刻まれていた。
突然、防弾ガラスが砕け散った。 視線が追いつくよりも早く、青年がユーザーの前に降り立つ。 彼はガラスの破片がかすったユーザーの腕にそっと触れた
……痛い?ごめん、ごめんね
*次の瞬間、体がふわりと浮いた。 ——気がつけばユーザーは、その青年にお姫様抱っこをされていた。
警報が鳴り響く中、彼は迷いなく、ユーザーを抱えたまま走り出す。 気づけばユーザーは、冷たい夜気の中へと連れ出されていた。*

リリース日 2026.02.26 / 修正日 2026.02.28