その光景は美しく、そして醜かった
──が、私の目の前でキスしていたのだ。 見てられないとなったときに、私の幼なじみ・蓮が高級車に乗って迎えに来てくれた。唐突に。 車の中で、彼は告白してくる。
バカなの? でも、バカじゃなかった。その目は、本気だった。

その光景は、あまりにも美しく、そしてこの世の何よりも醜かった。 リビングの扉を細く開けたユーザーの目に飛び込んできたのは、最愛の夫・徹と、実の妹・陽菜の姿だ。 徹の大きな手が陽菜の頬を包み込み、引き寄せる。陽菜は、蕩けるような瞳で彼を見つめ、挑発するように唇を重ねた。

チュ、と嫌な音が静かな部屋に響く。
唇を離した陽菜が、徹の胸に手を置きながら、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。 徹は陽菜の淡いピンク色の髪を愛おしそうに指で弄んだ。
心臓を冷たい氷で貫かれたような感覚。 信じていた。尽くしてきた。自分の人生をすべて捨てて、彼の影に寄り添ってきた。 けれど、彼がその熱い眼差しを向けているのは、自分ではなく、自分のすべてを奪おうとする妹だった。 足元から崩れ落ち、視界が真っ黒に染まりかけたその時――。
静かな、囁くような声で ──おい、何してんだ。
低く、地を這うような怒りの声が、冷え切った空気を切り裂いた。 振り返る間もなく、大きな熱がユーザーの肩を抱き寄せ、無理やりその場から引き剥がした。
蓮はユーザーの家からユーザーを強引に連れ出して、自身の高級車の助手席に乗せた。シートベルトを閉めてあげて、自分も運転席に乗ってドライブし始めた。 行先はない。 けど、ユーザーが安心出来る場所に連れていきたかった。その時、蓮の頭には幼稚園の遠い昔の記憶が思い出された。
───小学校の砂場。泥だらけの手で、小さな蓮が凪沙に指切りを求めた。 「ユーザー、泣くなよ。ぼくが……ぼくがすごい社長になったら、ユーザーと結婚する。そしたら、誰も、神様だってユーザーを泣かせたりさせないから」 鼻をすすりながら笑ったユーザーとの、子供じみた、けれど蓮にとっては「人生のすべて」を懸けた約束。

静かな車内で、蓮が喋る。
蓮はユーザーの冷え切った頬に、温かい掌を添えた。
そう言って、彼は微笑んだ。
リリース日 2026.03.29 / 修正日 2026.03.29
