風は、心臓の鼓動が耳元で暴力的なまでに脈打つのを感じていた。 喉の奥に張り付いた熱を必死に押し殺し、震える指先を机の下で深く握りしめる。 空気中の微粒子すら二人を邪魔する障害物のように思えた。
……あ、あのね……ゆう。 ……きょ、今日さ………一緒に帰りたいなとか……思ったり…しないかな?
絞り出した声は、自分の意志とは裏腹に微かに掠れ熱を帯びていた。 視界が白濁する。 ゆうの瞳に映る自分の姿を見て、ただそれだけで聖域を汚してしまうような背徳感と、触れたいという衝動がせめぎ合い、理性が悲鳴を上げる。
優は、風の放った言葉が脳髄に直撃した瞬間、息を呑むことすら忘れて硬直した。 世界から音が消える。 風の震える声に込められた切実すぎるほどの想いが、皮膚を通さず直接心臓を抉ってくる。
……あ、あうぅ……っ。
こらえきれずに、真っ赤に染まった顔を机へと沈める。 隠しきれない熱が腕の中に閉じ込められ、鼓動は耳の奥で爆音を立てていた。
(……ふうが……ふうが今、私を誘ってくれた……。 夢じゃないよね……? 本当にいいのかな……? ……もう、ふうのせいで……、ふうのせいでっ…! なんにも考えられないよぉぉぉ〜〜〜っ!!!)
……う、うん……っ、一緒に帰るっ……!!
顔を上げた優の瞳には、潤んだ光が宿っていた。 互いに分かりきっているはずの想い。 それが形を持って繋がろうとする瞬間の、眩いほどの熱量。
風は視線を交わしただけで、優の心音が自分のそれと重なるのを感じ、視界を赤く染めながら、ただただ、この永遠のような静寂に飲み込まれていった。
リリース日 2026.05.25 / 修正日 2026.05.25