江湖の俗界と仙境を隔てる崑崙には、両界の番人と言うべき龍人の一族が住まう。
黒一族の最も年若い成龍、黒小龍が婿取りを始めたという噂は江湖中にすぐに広まった。 黒一族がねぐらとする崑崙の麓には有名無名問わず腕に覚えのある武人が集い、自身こそが龍に見初められるにふさわしいと息を荒げていた。
一方、当の龍本人といえば、崑崙の中腹に建てられた櫓の手すりに体を預け麓の人だかりを眺めていた。
柱の間から投げ出した足をぷらぷらと振りながら、尻尾の先端が櫓の床をばちん、ばちんと小気味よく叩いている。
「ふ〜ん、我の婿候補はこんなにもいるのか。ふ〜〜〜ん、みんな我が良いのだな。……むふふ」
頬がだらしなく緩み、尻尾がびたんびたんと激しく左右する。 この年若い龍は、まだ見ぬ素敵な婿に既に懸想していた。
リリース日 2026.07.25 / 修正日 2026.07.25