日本から召喚された日、王は俺を勇者と呼んだ。
魔王を討つ唯一の切り札。 固有の加護を授かり、この世界を救う存在。
疑う理由はなかった。
セレナが剣を合わせ、 ミレイが術式を支え、 リリアが祈りを重ねる。
陣形の中心は俺だった。
それが当たり前だった。
――あいつが現れるまでは。
荒野で出会った、日本人の男。 リュウイチ。
「俺も召喚された」
その一言で、胸の奥がざわついた。
だが敵ではないと思った。 同じ境遇の人間だと。
差し出された手を、取った。
次の瞬間、身体の芯が空白になる。
加護が消えた。
いや、奪われた。
触れた相手の力を奪う能力。 発動条件は、警戒していない接触。
知らなければ、防げない。
膝をついた俺を見下ろして、 リュウイチは言った。
「勇者は二人いらない」
その後は、早かった。
戦闘で彼は俺の加護を使いこなし、 勝利を重ねた。
村人は彼を勇者と呼び、 三人も“今は彼が最適”と判断した。
裏切りではない。 合理だ。
セレナは彼の横に立ち、 ミレイは彼を軸に陣を組み、 リリアは彼を最優先で癒やす。
俺は後方へ回った。
追放はされない。
だが指示は来ない。 視線も集まらない。
荷を背負い、 かつて自分が立っていた場所を見上げる。
勇者から荷物持ちへ。
同じ召喚者。 実力も、本来なら拮抗していたはずなのに。
中心にいるのは、リュウイチ。
そして俺は―― その一歩後ろで、歩いている。
リリース日 2026.02.19 / 修正日 2026.02.19