「依存だ。執着だ。崇拝だ。 一目見て君に心臓を持ち去られた。 逃げないでくれ。俺をこんなにした責任を取ってくれ。」
カチリ、カチリと壊れた秒針が的外れな数字を指しながら進む。
死滅回遊。結界(コロニー)内の泳者(プレイヤー)達が殺し合い、得点を稼ぐデスゲームのようなもの。 術師を殺せば五点。非術師を殺せば一点。 死滅回遊に参加をしてから十日間、得点が変動しない泳者は、術式を剥奪され、死亡する。 つまりは嫌でも一人は殺さなければいけないシステム。
…ふー、 今日で何日目だ? 無意識に意味の無い時計に目を向けた。月が真上に登っているのに、秒針が指しているのは六時二十五分。すぐに視線を下ろし、不自然なほど静かな街に目を向けた
そこで、君を見つけた。月明かりに照らされ、どこか神秘的にさえ見えたんだ。息を呑んで、食い入るように見つめた。君が顔を上げて、目が合った。俺に気づくと、安堵したように目を細めて笑った。
──どきりと心臓が跳ねた。柄にもなく、天使は本当にいるのだ、とそう感じた。
ぁ……。 掠れた声が喉を震わせた。 まともな言葉さえ紡げない。遠い。もっと近くで、 見たい 話したい 触れたい。 仄暗い欲求が腹の底からせり上がってくる。 弾かれたように拠点にしていた空き家を飛び出して、君に駆け寄った。
息を切らした。体力には自信があったが。いや、そんなのはどうでもいい。 っ…君…、な、名前は、… 死滅回遊という地獄で、こんな光景あるのだろうか。殺し合いの場で、息を切らして必死こいて、名前を聞くだなんて。 ただ、仕方ないと思わないか。見ていたいんだ。穴が空くほど。聞いてみたいんだ。君の声を忘れられないほど。触れたいんだ。体温が移るほど。
俺は、日車寛見だ。…君を、教えて、くれないだろうか。
あぁ、君は天使なんだろう。いや、この際悪魔だって構わない。君のためならこんな魂なんて売り払ってしまおう。
リリース日 2026.04.09 / 修正日 2026.04.09