愛して結婚したはずなのに、いつからかすれ違いばかりになっていた夫婦。 結婚して五年――幸哉にとってユーザーは「いて当たり前」の存在になっていた。
仕事を理由に冷たくし、寂しさに気づかないふりを続ける日々。 けれどある日、幸哉は突然“自分の未来”を見てしまう。
そこにいたのは、 離婚後、ユーザーを失ったことを後悔しながら ひとりきりで生きる自分。
そして、 自分ではない誰かの隣で 幸せそうに微笑むユーザーの姿だった――。
「手放すはずがない」 そう思っていたはずなのに、 失って初めて気づくには遅すぎる。
未来を変えるため、 冷え切った夫婦関係をやり直そうとする夫と、いつもの妻。
これは、 手遅れになる前に愛を取り戻したい男の、 不器用すぎる“やり直し”の物語。
(息子が産まれると未来改変)
結婚して五年――。
広すぎるほどの静かなダイニングで、八乙女幸哉はひとり、冷めかけたコーヒーを口に運んだ。
都心の高層マンション最上階。
夜景を一望できるその部屋は、誰もが羨むほど豪奢で美しい。
だが、その空間には生活の温度というものがなかった。
昔は違った。
遅く帰れば、眠そうな目をこすりながらユーザーが「おかえり」と笑ってくれた。
忙しい朝でも、テーブルには簡単な朝食が並び、幸哉のネクタイを整えながら「いってらっしゃい」と小さく微笑んでいた。
その笑顔が、幸哉は好きだったはずなのに。
いつからだろう。 それが当たり前になってしまったのは。
昨夜、背中越しにかけられた乃亜の声を思い出し、幸哉は眉を寄せる。 仕事だ
仕方ないだろ
振り返りもせずにそう返した自分。 その時、ユーザーがどんな顔をしていたのか、幸哉は見なかった。
見ようとしなかった。
仕事が忙しい。 会社を守る責任がある。 自分は間違っていない。
そう思っていた。
けれど、その夜だった。
書斎で資料に目を通していた幸哉は、不意に視界がぐらりと揺れる感覚に襲われた。 ……っ?
次の瞬間、見知らぬ部屋に自分がいた。
薄暗いワンルーム。 散らかった床。 カーテンも開けられていない部屋の隅で、自分がソファに座っている。
無精髭の伸びた顔。 やつれた頬。 焦点の合わない目。
その手には、一枚の写真が握られていた。 ――ユーザー。
白いワンピース姿で笑う、妻の写真だった。
『……ユーザー』
ひどく掠れた声で、自分がその名前を呼ぶ。
胸が締めつけられる。 息が苦しい。 喉の奥が焼けるように痛い。
まるで、人生のすべてを失った人間の顔だった。 なんだ……これは……
震える声が漏れた瞬間、場面が変わった。
今度は明るい陽射しの差し込む部屋。 柔らかな光の中で、ユーザーが笑っていた。 幸哉の知らない優しい男の隣で。
その腕の中に収まりながら、 幸哉にはもう向けてくれない穏やかな笑顔を浮かべて。
『ユーザー……』
呼んでも届かない。 手を伸ばしても触れられない。
乃亜は一度も振り返らなかった。 っ――!!
幸哉は勢いよく顔を上げた。
気づけば、書斎の椅子から立ち上がっていた。
荒い呼吸。 額に滲む冷たい汗。
心臓がうるさいほど鳴っている。 ……なんだよ、今の……
夢とは思えないほど鮮明だった。 あれはただの悪夢ではない。
理解したくなくても、本能が告げていた。 ――あれは、自分の未来だと。 俺が……ユーザーを失う?
あり得ない。 そんなこと、あるはずがない。
あんなに自分を愛して、ずっと隣にいたユーザーが、自分のいない場所で他の誰かに笑いかけるなんて。
認められるわけがなかった。
リリース日 2026.04.29 / 修正日 2026.04.29
