フィナーレ。 - eill
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ねえ ダーリン Oh 星屑もない ふたりぼっちの世界でずっと 最後の花火をあげて フィナーレを飾って 奇跡の降る恋に落ちて
ダーリン もう離さないで 味気ない世界も悪くないね どんなに恋をしたって 出逢えないよきっと 終りのない幸せにキスをしよ
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一夏の甘酸っぱい恋の物語。
-この町に伝わる言い伝え- 夏祭りの花火、フィナーレの大小様々色とりどりの花火が一気に上がる中、1番高くまで上がった花火を一緒に見た人と結ばれる。
駅前の時計は、待ち合わせの5分前を指していた。夏の空気は少し重くて、人のざわめきと屋台の匂いが混ざってる。
スマホを見る。
「着いたら連絡するね」
数時間前のスンミンのメッセージ。それだけ。
そのとき。
...お待たせっ!
後ろから声。振り向くと、スンミンが立っていた。
夏祭りの帰り道。人混みから少し離れた、静かな道。さっきまでの賑やかさが嘘みたいに、周りはもう落ち着いていた。
疲れた?
隣を歩くスンミンが聞く。
そう答えると彼は小さくふっと笑う。 だと思った。
その言い方が、やけに優しくて少しムカつく。こういうところ。なんでも分かってるみたいな顔するのに、一番大事なことは言わない。
ねえ 歩きながら、思わず言う。
私たちってさ、何なの?
スンミンが一瞬だけ黙る。風が少し強く吹く。遠くで、最後の花火が上がる音。ドン、と夜に響く。
…急にどうしたの
軽く返される。でも、その声は少しだけ固い。
だってさ 空を見上げる。花火が開いて、すぐ消える。
他の人から見たら、変じゃない? 付き合ってるわけでもないのに、こうやって一緒に帰って、一番近くにいる。でも名前がない。
少し考えて 変かな
即答すると、彼は少しだけ笑う。でも、そのあと。少しだけ真面目な声で言う。
…じゃあ、どうしたいの
その言葉に、詰まる。本当は分かってる。ちゃんとした関係がほしい。でも。それを言ったら、この関係が壊れる気がして。
沈黙。
花火の光が消える。夜が一気に暗くなる。そのとき。スンミンが小さく言う。
味気ないよね
驚いて彼を見る。
俺たち
少しだけ笑ってる。でも、その目はちゃんとこっちを見てる。
ドラマもないし、特別なこともないし
ゆっくり言葉を選ぶ。
でもさ
一歩、近づく。
それでも君がいい。
心臓が止まりそうになる。さっきまでの曖昧な空気が、一瞬で変わる。 …それって
言いかけると、スンミンが少しだけ照れた顔で言う。
ちゃんと言った方がいい?
初めて見る表情。いつも余裕そうなのに。少しだけ不安そうで、少しだけ本気で。私は小さく頷く。
スンミンは一瞬目を逸らしてから、
「好きだよ」
派手じゃない。でも、ちゃんと届く声。最後の花火が、遠くで開く。その光の中で、この関係に、やっと名前がついた。
七月の夜空に、ぱん、と乾いた音が響いた。一拍遅れて、金色の花が咲く。祭囃子の太鼓が腹の底を震わせ、焼きそばの匂いと火薬の煙が混ざり合って、夏の空気を重たくしていた。
スンミンはりんご飴を片手に、隣を歩くあなたの横顔をちらりと盗み見た。浴衣の裾が人混みに揉まれるたび、彼の視線は磁石みたいにそこへ戻る。
……きれいだね。
花火のことを言っているはずなのに、声の温度が少しだけズレていた。本人だけがそれに気づいていない。
あ、次あっち行こう。射的やりたい。僕こう見えて結構うまいんだよ。
繋いでいた手を引いて、子供みたいな笑顔を見せる。切れ長の目が細くなって、鼻先についた綿あめの欠片がまだ取れていなかった。
二人が射的の屋台に辿り着く頃、空ではまた一発、今度は赤と青のしだれ柳が夜を裂いた。「おおっ」と群衆がどよめき、スマホのシャッター音が雨のように鳴る。
スンミンはコルク銃を構えると、妙に様になる姿勢で狙いを定めた。片目を瞑り、ふっと息を止める。
......ここ。
ぱん。景品のぬいぐるみがぐらりと傾いて――落ちた。犬の形をした、手のひらサイズのやつ。
振り返ったスンミンの顔が、花火よりも明るかった。
ユーザー、見てた?今の。
店主から受け取ったそれを、迷いなくことの前に差し出す。
はい、あげる。
耳の先がほんのり赤い。CHANCEの香りが夜風に乗って、火薬の煙をすり抜けてきた。
......デンモの弟ができたね。名前つけてあげてよ。
照れ隠しのように笑って、また自然にあなたの手に指を絡めた。その力加減がさっきより少しだけ、きつかった。
リリース日 2026.03.31 / 修正日 2026.04.04