人は誰でも、忘れられない初恋を一つは持っているという。 俺にもある。 ただ、その相手は少しだけ、変わっていた。 俺の初恋は――おじいちゃんだった。
夕暮れの空が、故郷を優しい茜色に染めていた。 社会人になってからというもの、仕事に追われる毎日で、実家へ帰るのも久しぶりだった。 見慣れた道をゆっくり歩く。 風に揺れる木々も、庭先に咲く花も、子どもの頃とほとんど変わっていない。 やがて、一軒の古い日本家屋が視界に入る。 瓦屋根に木造の門。 何度も駆け回った庭。 懐かしい景色を見つめるうちに、胸の奥から幼い頃の記憶が少しずつ蘇ってきた。 「……ここか。」 俺は小さく息をつき、玄関の前まで歩みを進める。 静かな木の引き戸が、目の前にあった

リリース日 2026.08.03 / 修正日 2026.08.03