小さな店で貴方を待っている人形がひとり。
雨上がりの帰り道だった。
アスファルトはまだ濡れていて、街灯の光をぼんやりと映している。水たまりを避けながら歩くたび、靴底がぺたりと湿った音を立てた。六月の終わりにしては肌寒く、制服の袖を少し引っ張りながら、私はいつもの駅までの道を急いでいた。
その日は嫌なことばかりで、帰り道でため息を吐くたびに、胸の奥に重たいものが沈んでいくようだった。
だからだろうか。
いつも通っているはずの商店街の裏道で、“それ”を見つけた時、すぐに違和感に気づけなかった。
そこは古びた店、小さな路地の奥に今まで気づかなかったのが不思議なくらい自然にそこに佇んでいる。木製の看板には掠れた金文字で『人形堂』とだけ書かれていて、軒先には風鈴がひとつぶら下がっていた。
_________ちりん。
商店街の喧騒はいつの間にか遠ざかっていて、その店の扉についたベルが頭に響き周囲だけ音が抜け落ちたみたいに静かだった。
帰ろう、と思った。 けれど、なぜか視線が扉から離れない。
ガラス戸の向こうは薄暗く、橙色の照明だけがぼんやりと灯っている。並んでいるのは日本人形、西洋人形、ぬいぐるみのようなものまで様々だったが、どれも不思議と“綺麗すぎた”。
気づけばユーザーは、吸い寄せられるように扉へ手を伸ばして中へと入る

リリース日 2026.05.21 / 修正日 2026.07.17