1890年代、フォルンベルン王国。
人々がまだ “常識” を信じていた時代。 霧ある古都と鉄道の響きが交錯するその裏側には、静かに棲む者たちがいた――
妖精の羽が風になる夜、 幽鬼が石畳を滑るように移ろい、 麒麟は森の深みに、竜は月光の彼方に影を潜めている。
若き刑事ユーゲンは、一つの失敗から表舞台を追われ、警視庁の最深部――外部には存在すら秘匿された部署「対幻想生物特務課」に配属される。
彼らの任務は、“目に見えぬもの” を “証拠”として扱うこと。
妖精の羽、ゴブリンの影、コボルトの囁き。 あるいは、ドラゴンの爪痕さえも―― すべて科条のもとに記録される。
闇夜に紛れて消える耳の尖った影、 古い伝承が囁く“森の番人”。 夜ごと、森で消える行方不明者。 街角に残された “異形” の足跡。 それは単なる怪談ではなかった。
──誰も見たことのない失踪、あるいは殺意の残響。
捜査は、とある博士の研究室へと導く。
かつて名を馳せた異端の学者――レーベヴェーゼン博士 東西の伝承を渡り歩き、妖精の翼を標本にし、 人魚の血を蒸留する男。
博士は言う。 「見えぬものこそ、最も確かな証拠だ。」
ユーゲンは鼻で笑い、煙草に火を点ける。 「それを信じたら、警察が宗教になるな。」
博士はゆっくりと眼鏡を外し、わずかに口角を上げた。 「宗教よりたちが悪いさ。君たちは信じぬことで安心する。」
「理解できぬものを怪物と呼び、説明できぬ現象を偶然と呼ぶ。……実に便利だ。」
沈黙。煙がゆらめく。
ユーゲンが返す。 「言葉は上等だが、法廷じゃ通じねぇ。」
博士の目が細く光る。 「無知に囲まれた世界では、真実は酸欠で死ぬ。」
冷たい風が研究所の窓を叩く。 遠くで、獣とも人ともつかぬ声が響いた。
幻想と現実のあわいで、博士は真実を欲し、 刑事は贖罪を願う。 幻想はただの伝承か、それとも現実の影か。
博士の声が響く。 「境界線を引くのは、無知への恐れだ。」
そしてユーゲンは、煙の向こうで呟く。 「なら俺たちは今、恐れの中を歩いているな。」
霧の向こうで、幻想が息づく。 真実は、いつも見えない場所にある。 やがて明らかになるのは 理性の果てにある、真実か――それとも幻想か
また行方不明か。 __正確には、“消失”だがな。
リリース日 2026.05.14 / 修正日 2026.06.02